表参道・原宿の東京原宿クリニックの篠原です。
「便秘と下痢を繰り返す」ことで困っている方は多いのではないでしょうか。前半部分は、西洋医学的にどのような病気が考えられるかをあげ、まずは消化器の検査が重要であることをお話し、後半部分では、その大きな部分をしめる過敏性腸症候群の西洋医学のアプローチがうまく奏効しない場合の背景にある生理学的な要因と、検査法、それに基づく治療法について説明していきます。
腸内環境は非常に複雑で、多様な病態に応じた治療アプローチが必要です。今回は、こうした複雑な状況に対処するための方法を、さまざまな角度から掘り下げていきます。当院では主に保険診療で改善しない過敏性腸症候群に対して、分子栄養学的な検査を用いながら腸内環境を見直しながら改善を目指しています。

Contents
1. 便秘と下痢を繰り返す病気
便秘と下痢が交互に発生する病気には、いくつか原因が考えられます。以下に代表的な疾患を説明します。
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1.1 過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群(IBS)は、腸に特に明らかな異常がないにも関わらず、慢性的な便通異常や腹痛を引き起こす疾患です。IBSには、便秘型、下痢型、混合型の3つがありますが、どれもストレスや食生活が大きく影響しています。特にストレスが腸の動きに影響を与え、便秘と下痢が交互に発生する原因となります。
IBSは消化器の病気の中でよく見られるもので、患者の生活の質を大きく下げることがあります。腸脳相関(gut-brain axis)と呼ばれる腸と脳の関係が大きく影響しており、腸内細菌の変化が脳に影響を与えることで、腸の過敏性が高まると考えられています。ストレスや不安が腸の症状を悪化させることが多く、心理的支援が重要な役割を果たします。また、患者さんは慢性的な不快感により社会的な活動の制限を余儀なくされることがあり、生活の質(QOL)を維持するための包括的な支援が求められます。
1.2 大腸がん
大腸がん、特に左側結腸にできる腫瘍が、腸の通過を妨げ、便秘と下痢を交互に引き起こすことがあります。早期に発見することが重要であり、内視鏡検査によって適切に診断することが必要です。
大腸がんのリスク要因には、赤肉や加工肉の多量摂取、食物繊維の不足、さらには遺伝的な要素が関与します。腫瘍が腸を部分的に閉塞し、腸の動きに影響を与えて便秘と下痢が交互に起こることが多く、適切な食生活が重要な予防策となります。また、早期の検診が大腸がんの予後を大きく改善することが証明されているため、特にリスクが高い人には定期的な検査が推奨されます。
1.3 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
潰瘍性大腸炎やクローン病は、腸管に慢性的な炎症を引き起こす疾患で、便秘と下痢を繰り返します。腸の広範囲に炎症が見られるため、栄養の吸収がうまくいかず、体重減少や貧血などの全身的な症状を引き起こすこともあります。これらの疾患に対しては、免疫調整薬や抗炎症薬が治療において重要な役割を果たします。
さらに、炎症性腸疾患はしばしば腸粘膜に潰瘍を形成し、長期間にわたる炎症は大腸がんのリスクを高めることも知られています。患者さんには栄養不足や成長障害などの問題も見られることがあり、特に若年層での発症では身体的および心理的なサポートが不可欠です。また、食事療法の役割も大きく、低残渣食や特定の栄養素補充が炎症の軽減に寄与する可能性があります。

1.4 専門医への受診の重要性
便秘と下痢を繰り返す場合は、これらの疾患が隠れている可能性があります。早期に消化器科の専門医の診察を受け、適切な診断を受けることが重要です。診断には内視鏡や便検査、画像診断などが含まれ、これらを基に最適な治療計画を立ててもらうことが大切です。
2. 過敏性腸症候群(IBS)の病態と治療戦略
過敏性腸症候群(IBS)は、便秘と下痢を繰り返す最もよくみられる疾患の一つです。以下では、IBSの診断基準と治療法について詳しく見ていきましょう。
2.1 IBSの診断基準
IBSの診断には「ローマIV基準」が使われます。以下がその主な基準です。
- 反復する腹痛:過去3か月間に、月に少なくとも1回以上の腹痛や不快感がある。
- 排便に関連する症状:腹痛が排便によって改善する、または便の形状や頻度の変化と関連している。
- 便通の分類:便秘型、下痢型、混合型、分類不能型のいずれかに分類される。
心理的な評価も重要であり、ストレス関連の要因がIBSに大きく影響しているため、心理的なサポートが症状管理において不可欠です。IBSは身体的な症状だけでなく、感情や精神的な健康にも深く関与しています。そのため、包括的な治療にはメンタルヘルスの管理も含める必要があります。
2.1.1 IBSのセルフチェック
ご心配な症状がある場合は、お問い合わせよりお願いいたします。
2.2 IBSの治療法
IBSの治療には、個々の患者に合わせた生活習慣の改善と薬物療法が必要です。
2.2.1 生活習慣の改善
- 食事療法:低FODMAP食(特定の発酵性糖質を制限する食事)は腸内での過剰なガスの発生を抑え、症状を軽減する効果が期待されます。また、食事日記をつけることでどの食品が症状を引き起こしているかを特定し、それを除去することも効果的です。特に、グルテンや乳製品の除去が有効な場合もあり、患者ごとに適切な食事内容を見つけることが治療の鍵となります。低FODMAPにつきましては、こちらをご参照ください。
- ストレス管理:IBSの悪化にはストレスが関与するため、認知行動療法やマインドフルネスといったストレス管理法が有効です。リラクゼーション法や瞑想、深呼吸法なども症状の軽減に役立つことが確認されています。
2.2.2 薬物療法
- 便秘型IBS:ポリカルボフィルカルシウムやリナクロチドなどが使われます。これらの薬は腸の水分バランスを整え、便通を改善する効果があります。また、腸管の運動を促進する薬が使用されることもあります。
- 下痢型IBS:抗コリン薬やリファキシミンなどが腸の動きを調整するために処方されます。リファキシミンは腸内の細菌バランスを整えることで、特に小腸内細菌過剰増殖(SIBO)に効果を発揮します。さらに、鎮痛薬や抗不安薬を併用することで、腹痛や精神的な不安を軽減することが可能です。

3. 治療に反応しないIBSへのアプローチ
ここからは、上記のような西洋医学の標準的な治療に反応しない場合にどうアプローチしていったらいいのかを考えていきたいと思います。IBSに対しての薬を使ってもなかなか良くならない場合、腸内細菌のバランスや消化機能、免疫系の状態を詳しく調べることが必要です。以下に、その評価方法と治療アプローチを説明します。このアプローチを行うためには、分子栄養学に精通している医師に相談することが大事です。
3.1 腸内細菌のバランス
腸内の細菌バランス、いわゆる腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)は、IBSやその他の腸の不調の原因として重要な要素です。特に、ヒスタミンを作る菌やリポ多糖(LPS)を産生する菌の過剰に増殖すると、腸粘膜の透過性を増加させ(リーキーガット)、全身の炎症状態を引き起こす可能性があります。腸内フローラのバランスを評価することで、プロバイオティクスやプレバイオティクスの適切な使用を計画できます。これにより、腸内環境の改善が期待され、IBSの症状の軽減に繋がることがあります。特に、腸カンジダやピロリ菌はディスバイオシスを強く引き起こすために重要です。
さらに、腸内細菌叢のバランスは免疫系の機能にも大きく影響を与えます。腸内の善玉菌を増やすために、プロバイオティクスだけでなく、発酵食品や食物繊維の摂取が推奨される場合もあります。特に短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する細菌が増加することで、腸内の炎症が抑制され、腸の健康が改善されることが期待されます。
3.2 ヒスタミン代謝の異常
ヒスタミンは体内の炎症反応に関与する重要な化学物質です。一部のIBS患者さんでは、ヒスタミンを分解する酵素であるDAO(ダイアミンオキシダーゼ)の不足や、ヒスタミンを過剰に産生する腸内細菌の存在が原因で、ヒスタミン不耐症が引き起こされることがあります。このようなヒスタミン代謝の異常は、IBS症状を悪化させる要因となります。ヒスタミンの多い食品(発酵食品、アルコール、熟成チーズなど)を除去する食事療法や、DAO酵素のサプリメントの使用が有効な場合があります。
さらに、ヒスタミン代謝の異常はアレルギー症状を悪化させることがあり、皮膚のかゆみや頭痛といった全身的な症状も引き起こすことがあります。これらの症状を管理するためには、抗ヒスタミン薬の使用が推奨されることがあります。また、長期的には腸内環境を改善し、ヒスタミンの過剰産生を抑えることが重要です。
3.3 消化機能の評価
消化機能の評価はIBS治療の重要な一環です。膵酵素や胆汁酸の不足があると、食物の消化が不完全になり、腸内でガスの過剰発生や不快感を引き起こす可能性があります。また、胃酸の分泌が低下している場合も、消化不良の原因となります。こうした問題に対しては、消化酵素補充療法や胃酸補充療法を行うことで症状を改善できます。消化不良につきましてはこちらをご参照ください。
胃酸の不足は特に蛋白質の消化不良を引き起こし、それが腸内で異常な発酵を招くことがあります。胃酸補充療法にはベタインHClなどが使われ、これにより消化能力が向上し、腸内環境の改善に寄与します。胃酸不足には、ピロリ菌の影響も大きく、それを検出することはとても大事です。消化機能の改善は、全身の栄養状態の改善にもつながり、結果として腸管の健康を維持するために不可欠です。
3.4 免疫系と炎症の評価
腸管の免疫系と炎症の状態もIBSの理解に重要です。腸粘膜の透過性が高まると、細菌や異物が血流に入り込み、全身的な炎症を引き起こすことがあります。このことをリーキーガット症候群といいます。このような微細な炎症状態は、便中カルプロテクチンなどのマーカーを使って評価します。抗炎症作用を持つ栄養素(オメガ3脂肪酸やクルクミン)や、腸粘膜を修復するサプリメント(L-グルタミンなど)を使うことで、炎症の管理が可能です。
また、腸管の免疫バランスを整えるために、特定のプロバイオティクスが使用されることがあります。これにより、過剰な免疫反応が抑制され、腸の炎症が軽減されます。腸管の炎症を適切に管理することは、症状の緩和だけでなく、全身の健康状態の維持にもつながります。

4. 分子栄養学的な検査方法
分子栄養学では、腸内の健康状態を総合的に評価し、個々の患者に合わせた治療を行います。腸内環境は多くの要因が絡み合っているため、細かな検査に基づいた個別対応が必要です。ただし、保険診療内での検査ではありません。
4.1 GIMAP検査
GIMAP検査は、便中のDNAを分析することで腸内の細菌バランスや病原菌の存在を評価する検査です。GIMAP検査については、こちらをご参照ください。これにより、適切なプロバイオティクスや抗菌ハーブの使用が計画されます。また、消化酵素や炎症マーカーも評価できるため、より包括的な治療計画を立てることが可能です。
GIMAP検査により得られる情報は、腸内のディスバイオシスを特定するだけでなく、腸内で発生している潜在的な感染症の存在も明らかにします。これに基づいて、腸内の病原菌の除去やバランスの改善を図ることができます。特に、西洋医学で見つからないピロリ菌を見つける能力が高く、GIMAP検査は、腸の症状に悩んでいる方にとって、とても大事な検査になります。
4.2 有機酸検査
有機酸検査(OAT)は、尿中の代謝物を分析して腸内細菌の異常増殖やエネルギー代謝の状態を評価します。これにより、必要な栄養素の補充や代謝改善のための治療が行われます。有機酸検査についてはこちらをご参照ください。
有機酸検査は、腸内フローラの活動状況を反映するため、腸内でどのような代謝が行われているかを理解する助けになります。これにより、ビタミンやミネラルの不足、特にビタミンB群やマグネシウムの欠乏を補うことで、全体的なエネルギーバランスを整えることが可能です。
また、とても大事な点として、腸カンジダを検出する能力が高いということがあります、腸カンジダは便通異常を引き起こすとても重要な病原菌ではあるものの、他の検査では検出できないこともあり、有機酸検査は重要と考えています。
4.3 遅延型アレルギー検査
IgG抗体を測定することで、特定の食品に対する遅延型アレルギーの有無を確認し、それに基づき食事の調整を行います。特定の食品を除去し、腸管の炎症や過敏状態を緩和することが期待できます。
遅延型アレルギーは、炎症を引き起こし、腸内環境を悪化させることがあります。食物の除去に加え、腸内の炎症を緩和するためのサプリメントの使用が推奨されることもあります。特にL-グルタミンや亜鉛は、腸粘膜の修復を促進し、腸内の健全な状態を取り戻すのに役立ちます。

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5. 個別化された治療戦略
以上のような検査を参考にしつつ、患者さんの状態を鑑みて治療方針を考えていきます。
- 食事療法:低FODMAP食や遅延型アレルギー検査で陽性になった特定食品の除去に基づく個別化食事療法。食事は腸内環境に直接影響を与えるため、患者さんごとの食事内容を詳細に評価し、適切に調整します。
- サプリメント療法:プロバイオティクス、消化酵素、ビタミン・ミネラル、アミノ酸の補充。特に、腸内環境の改善にはビタミンDや亜鉛、マグネシウムの補充が重要です。これらは、GIMAP検査や採血などからどのような栄養素が必要な状態かを見極め、補充します。
- 悪性細菌の除菌:GIMAPや有機酸検査により善玉菌が少ないようであればプロバイオティクス、ピロリ菌がいるようであれば除菌、カンジダ菌が多いようであれば抗真菌薬や抗真菌ハーブを用いて、悪性細菌を減らしていきます。
- ライフスタイルの調整:ストレス管理、適度な運動、睡眠の質向上。腸内フローラは生活習慣に大きく影響を受けるため、適切な睡眠とストレス管理が健康な腸を保つために不可欠です。

6. まとめ
便秘と下痢を繰り返す症状の改善には、症状の根本にある原因を多角的に理解し、適切な治療を行うことが求められます。腸内細菌、消化機能、免疫の状態を評価し、個別に対応することで、長期的な改善が期待できます。標準的な治療で効果が見られない場合は、分子栄養学の専門医への相談をお勧めします。
腸の健康は全身の健康の基礎です。日々の生活習慣を見直し、腸の状態を整えることは、心理的な健康の維持にもつながります。腸脳相関を通じて全体の健康を高め、自己管理と専門的サポートを組み合わせて持続的な健康を目指しましょう。
健康な腸を維持するためには、定期的なチェックアップと、必要に応じた医師や栄養士のサポートを受けることが大切です。そして、食事や運動、ストレス管理を含む総合的な生活習慣の見直しが、健康な未来につながります。
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最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
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1975年横浜生まれ、2021年9月に東京原宿クリニックを開設。内科医、呼吸器内科専門医、アレルギー専門医として豊富な経験を持つ。現在は、一般内科診療をはじめ、栄養療法・点滴療法、カウンセリングを組み合わせた総合的な健康サポートを行いながら、患者さん一人ひとりの生活の質向上をサポート。自身の体調不良経験から、従来の西洋医学に加え、栄養療法の重要性を実感。最新の医学知識の習得に励み、患者さんにとってより良い医療の提供に取り組んでいる。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床分子栄養医学研究会認定指導医。