表参道・原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。
最近、腹部の不調でお悩みではないでしょうか。食後のお腹の張りや、下痢と便秘の繰り返し、原因不明の体重減少など、これらの症状に心当たりのある方は、もしかしたら「SIBO(シーボ)」かもしれません。
私が外来をしていますと、このような症状に悩んでいらっしゃる方がとても多いです。
SIBOとは(Small Intestinal Bacterial Overgrowth)の略で、日本語では「小腸内細菌増殖症」と呼ばれています。本来、大腸に多く存在する腸内細菌が小腸に異常増殖することで、様々な消化器症状を引き起こしてしまうというわけです。
この記事では、SIBOとはどのような病気なのか、どのような症状があるのか、原因は何なのか、どのように診断・治療するのかについて、解説していきます。
さらに、SIBOの可能性をセルフチェックできるツールもご用意しましたので、ご利用されてみてください。
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Contents
SIBOとは?
SIBOは、小腸内で細菌が異常に増殖し、通常は少ないはずの細菌数が大腸並みに増える状態を指します。この異常増殖により、小腸内でガスが過剰に発生し、様々な腹部症状を引き起こしてしまうというわけです。
小腸は、胃で消化された食べ物の栄養分を吸収する大切な場所です。健康な人の小腸内には、大腸に比べて細菌の数が非常に少ないのが特徴です。しかし、SIBOの状態では小腸内の細菌が大腸並みに増えてしまうため、正常な消化吸収を妨げてしまうのです。
SIBOは比較的新しい疾患概念で、近年注目を集めています。過敏性腸症候群(IBS)と診断されている患者さんの中に、実はSIBOが隠れているケースも少なくないと考えられています。
SIBOの症状
SIBOの症状は人によって様々ですが、代表的なものは以下の通りです。
- 腹部膨満感・腹部ガス
- 腹痛
- 下痢や便秘(または両者の交互)
- 過度のおなら
- 体重減少
- 栄養欠乏症(特にビタミンB12欠乏)
- 疲労感
- 胸やけ
- 脂肪便(柔らかく脂っこい便)
これらの症状は一般的には食事の後に悪化することが多く、炭水化物の多い食事でより顕著になる傾向があります。SIBOでは小腸で細菌が炭水化物を発酵させ、ガスを過剰に産生するからと考えられています。
ただし、これらの症状はSIBOだけによるものとは限らず、他の消化器の病気でも見られることがあります。逆に、無症状のSIBOも存在します。SIBOを疑った場合は、医療機関で適切な検査を受けることが大切です。
そして、お腹の症状だけでなく、全身症状として現れることもあるので注意が必要です。
SIBOセルフチェック
以下の質問にお答えいただくことで、あなたがSIBOである可能性をざっくりと判定できます。
すべての質問に答えて、「結果を表示」ボタンを押して判定をみてください。
SIBOの原因
SIBOが発症する原因はいくつか考えられています。
- 胃酸分泌の低下
- 胃酸は、食べ物を消化するだけでなく、細菌の増殖を抑制する働きもあります。加齢やストレス、ピロリ菌感染、胃酸分泌抑制薬の長期使用などにより胃酸が減ると、小腸内で細菌が増殖しやすくなります。
- 腸管運動の低下
腸には蠕動運動という収縮の波があり、食べ物を一定の速度で移動させています。糖尿病や甲状腺機能低下症、パーキンソン病などの疾患や、腹部手術の影響で腸管運動が低下すると、小腸内に食べ物が停滞しやすくなり、細菌の温床となります。 - 腸内細菌叢の乱れ
腸内細菌のバランス(腸内フローラ)が崩れると、悪玉菌が増えて小腸に移動しやすくなります。抗生物質の乱用、過度なストレス、偏った食生活などが原因となります。 - 回盲弁の機能不全
- 回盲弁は小腸と大腸の境目にある弁で、大腸内容物の小腸への逆流を防いでいます。この弁の機能が低下すると、大腸の細菌が小腸に入り込みやすくなります。
これらの要因が単独または合わさることでSIBOが発症すると考えられています。
SIBOの検査
SIBOを診断するためのゴールドスタンダードは、小腸液を採取して細菌培養する方法なのですが、この方法は侵襲的で特殊な内視鏡設備が必要なため、一般的には行われません。
そこで、臨床の現場では主に以下の検査が用いられています。
- 呼気水素・メタンガス検査
- ブドウ糖やラクツロースなどの糖質を飲んだ後、一定時間ごとに呼気中の水素・メタンガス濃度を測定します。小腸内の細菌が糖質を発酵させると水素やメタンが産生されるため、これらのガスが高値であればSIBOの可能性が高いと判断します。当院は以前はこの検査を行っておりましたが、治療に結びつきにくいなどの理由があり、最近は他の検査を行うことが多いです。
- 便中遺伝子検査
- 便サンプルから細菌のDNAを抽出し、細菌叢の構成をみる検査です。小腸由来の細菌が多く検出されれば、SIBOを示唆します。当院では、この検査として多く用いているのはGIMAPという検査です。
- 腹部画像検査(レントゲン、CT、超音波など)
- 小腸の拡張や内容物の停滞、腸管壁の肥厚などの所見が見られる場合があります。ただし、SIBOに特異的な所見ではないため、他の検査と組み合わせて総合的に判断します。
当院では、GIMAPや尿中有機酸検査を多く用いて診断しています。
これらの検査にはそれぞれ一長一短があり、SIBOの診断は必ずしも容易ではありません。検査結果と臨床症状を照らし合わせながら、慎重に診断する必要があります。
SIBOの治療
SIBOの治療は、根本的な原因を取り除きつつ、増殖した細菌を減らすことが目的となります。
食事療法(低FODMAP食)
SIBOの食事療法として、低FODMAPという方法が知られています。FODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, and Polyols)とは日本語に訳すと「発酵性オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール」で、発酵性の高い短鎖炭水化物の総称であり、これを制限することで腸内細菌によるガス産生を抑えます。
高FODMAP食=食べてはいけないもの?
FODMAPへの反応は個人差が大きいため、画一的な制限は避けるべきです。必ずしも、高FODMAP食は”食べてはいけないもの”というわけではありません。また、低FODMAP食であっても、必ずしも食べていいものとは限りません。すべてを避けてしまうと栄養状態が悪化してしまうため、個別に調整していくことが大切です。以下は、参考にされてください。
✗制限される食品(高FODMAP) | ◯推奨される食品(低FODMAP) |
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乳製品
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乳製品代替品
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野菜
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低FODMAP野菜
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果物
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低FODMAP果物
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穀物・でんぷん
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穀物・でんぷん類
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飲み物
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低FODMAP飲み物
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薬物療法
SIBOに対する薬物療法の中心は、抗菌薬です。リファキシミンという抗生物質が第一選択として使われることが多いです。リファキシミンは腸管から吸収されにくいため、全身性の副作用が少ないというメリットがあります。
当院においては、GIMAPや、有機酸検査などを行い、腸の中で過剰に増殖している菌を同定し、その菌に合わせた抗菌薬を選択しています。
例えば、腸カンジダが増殖して腹部膨満になっていることもあり、そのときには、抗真菌薬を選択しています。
その他、腸管運動を改善する薬や、消化酵素薬、整腸剤なども状況に応じて使用されます。
プロバイオティクス(善玉菌サプリメント)については、症状を悪化させるケースもあるため、主にGIMAPの検査を見ながら適応を決めていきます。
SIBOの予防
SIBOは再発しやすい疾患でもあります。完治後も再発予防のための生活習慣を心がけましょう。
- 規則正しい食生活を送る(腹八分目、よく噛む、ゆっくり食べるなど)
- 偏食を避け、バランスの取れた食事を心がける
- ストレス対策を行う(十分な睡眠、適度な運動など)
- 過度な抗生物質の使用を控える
- 胃酸抑制薬の長期使用は控えめにする
また、SIBOの背景に他の疾患(ピロリ菌感染、甲状腺機能低下症など)が隠れていることもあります。定期的な健康診断を受け、早期発見・早期治療に努めることも大切です。
SIBOについてのコラムも御覧ください。
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まとめ
SIBOは、近年注目を集めている消化器疾患の一つです。腹部膨満感、ガス、下痢・便秘などの症状が特徴的ですが、無症状の場合もあります。
原因は様々で、胃酸分泌の低下、腸管運動の低下、腸内細菌叢の乱れ、回盲弁の機能不全などが関与していると考えられています。
診断には問診、GIMAP、有機酸検査などが用いられます。治療は、食事療法(低FODMAP食)や薬物療法(抗菌薬、消化管運動改善薬など)が中心となります。再発予防のためには、生活習慣の改善が欠かせません。
自覚症状からSIBOの可能性を疑った場合は、適切な診断と治療を受けましょう。
当院では、SIBOの診断と治療は、栄養外来で行っております。
最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。