表参道、原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。
脂質異常症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、睡眠時無呼吸など聞きたくない生活習慣病で悩んでいる方もいらっしゃるかと思います。
内科外来をしていますと、脂質異常症にはスタチン、高血圧には降圧薬、糖尿病にはDPP-4阻害薬、高尿酸血症には尿酸合成阻害薬、睡眠時無呼吸にはCPAPという風に、対症療法的に薬がどんどん増えてしまうことを良く経験します。
ほとんどの場合、その裏に肥満があることが多いのです。
多くの方は、対症療法の薬にお金を払って飲むことにはあまり抵抗はありません。
しかし、その裏にある肥満を改善させよう、という話になった時に、とてつもない抵抗にあうことがよくあります。
増えた体重の正体は体脂肪です。
体脂肪の中でも、内臓脂肪や異所性脂肪は、とにかく悪者で、炎症を起こすことで全身に常にダメージを与えています。
炎症を起こすから、それを火消ししようとして、副腎疲労にもなります。
今回は、いかに内臓脂肪や異所性脂肪が悪影響をおよぼしているか、ということと、その改善方法についてお話したいと思います。
もし、皆さまも、男性で腹囲85cm以上、女性で90cm以上あるようでしたら、内臓脂肪が蓄積している可能性大なので慎重に対処した方がいいです。
しかし、この基準以下でも、隠れメタボの可能性もあります。後述します、健康診断の血液検査などからその可能性が有る方も気をつけましょう。
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Contents
体重が一定であるメカニズム
なぜ、体重は増えてしまうのでしょうか。
それを考えるためには、体重を維持するメカニズムをまずおさらいしましょう。
体についた脂肪細胞は、ホルモンのような働きをする生理活性物質(アディポカイン)を分泌していることがわかってきました。
その中の、レプチンという生理活性物質は、食欲を弱める作用があります。
脂肪細胞が増加すると、その細胞から分泌されるレプチンの量も増加します。
レプチンは、脳の視床下部に到着して、食欲を弱めます。
視床下部は自律神経の調節にも関係していて、レプチンが視床下部を刺激すると交感神経の活動性が高まり、過剰なエネルギーを消費します。
このようにして、私達の体重(脂肪量)は自動的に一定に保たれるのです(1)。
なぜ、肥満が生じるのか
では、なぜ肥満になってしまうのでしょうか。
その原因の一つは、レプチンがいくら分泌されても、脳の視床下部がそれに対して反応しなくなってしまうからです。
どうして、レプチンに対する反応が悪くなってしまうかは完全にはわかっていません。
こういう理由で残念ながら、肥満している人に人工的に作ったレプチンを投与しても、やせません(笑)。
脂肪のつく順番(皮下脂肪、内臓脂肪と異所性脂肪)
脂肪が付く原因は、栄養のとりすぎです。
とりすぎた栄養は、まず皮下脂肪につきます。
それでもさらに過栄養が続くと、次に内臓脂肪と異所性脂肪に脂肪がつきます。
内臓脂肪とは、その名の通り、内臓(腸管など)の周りに付く脂肪のことを言います。
異所性脂肪は、内臓脂肪以外の場所、多くは肝臓や筋肉につくことを言います。
肝臓に脂肪が付くと、脂肪肝となるわけです。
肥大型脂肪細胞は病気になる因子を出す
脂肪組織につく細胞を脂肪細胞といいます。
脂肪細胞には、前駆脂肪細胞、小型脂肪細胞、肥大化脂肪細胞があります。
肥満ではない成人の脂肪細胞のサイズは小型(60-90μm)ですが、肥満してくると、脂肪細胞の脂肪蓄積量が増加するため、細胞のサイズが大きくなってきます(140-160μm)。
ざっくりと、小型脂肪細胞は病気を予防する因子を放出します。
それに対して肥大型脂肪細胞は病気を起こす因子を放出します。
皮下脂肪には小型脂肪細胞、内臓脂肪には肥大型脂肪細胞が多いのですが、どうしてそうなるかはよくわかっていません。
残念ながら日本人は欧米人に比べて内臓脂肪が溜まりやすい傾向にあります。
このように、内臓脂肪は貯めると体に良くないのです。
では、肥大型脂肪細胞ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
肥大型脂肪細胞はマクロファージと一緒にやっかいな慢性炎症を起こす
栄養を摂りすぎて、肥大化した脂肪組織からは、MCP-1という炎症性サイトカインを出します。
MCP-1はマクロファージという細胞を脂肪組織に呼び寄せます。
呼び寄せられたマクロファージは、脂肪組織に到達すると、さらにMCP-1を作ったり、TNFαなどの強力な炎症性サイトカインを作ります(2,3)。
この結果、肥大型脂肪組織では、脂肪細胞と、呼び寄せられたマクロファージがお互いを活性化して、悪循環を引き起こします。
この悪循環は、炎症性サイトカインをどんどん出して、慢性炎症を引き起こします。
慢性炎症が、今度は脂肪組織のみならず全身に広がって、肝臓での糖新生の亢進や、筋肉での糖の取り込みが減ることで、高血糖になります(4)。
しかも、慢性炎症であるため、この炎症をどうにかしようとして副腎が常に頑張らないとならなくなるために、副腎疲労の原因にもなります!
脂肪肝(異所性脂肪)はもっと怖い
内臓脂肪に肥大型脂肪細胞が増えると、これ以上脂肪が溜まらなくなって内臓脂肪を分解するようになります。
内臓脂肪が分解すると遊離脂肪酸およびグリセロールが肝臓の門脈へと流入します。
遊離脂肪酸とグリセロールが直接肝臓に運ばれるために、今度は脂肪肝をもたらします(5)。
お酒を飲まない人が脂肪肝になったとしても、以前は楽観視されていたこともあります。
しかし、現在では、お酒が原因ではない脂肪肝(NAFLD)はやはり耐糖能異常、脂質異常症、高血圧と深い関係があることがわかっています。
さらに、脂肪肝は進行すると肝硬変➡肝臓がんを発症していくため、早めの治療が必要です。
脂肪肝において、肝臓にダメージを与えてしまう機序として、次のことが言われています(6)。
酸化ストレス
脂質異常症により、ミトコンドリア膜の脂質組成にも変化が生じてしまいます。
その結果、ミトコンドリアから活性酸素が出て、肝臓にダメージを与えてしまいます。
小胞体ストレス
細胞内にある小胞体では、タンパク質の折りたたみをしています。
正常な折りたたみが出来なかったタンパク質(不良在庫)が小胞体に溜まってしまい、小胞体の機能が異常をきたした状態が小胞体ストレスといいます。
小胞体ストレスがあると、肝細胞への脂肪蓄積が促進します。
また、小胞体ストレスが酸化ストレスを増大させます。
その結果、肝臓にダメージを与えてしまいます
オートファジー
オートファジーは、細胞内のタンパク質やいらなくなった小器官を分解するメカニズムのことです。
大村博士がこの研究でノーベル賞をとったのは記憶に新しいです。
https://scienceportal.jst.go.jp/
オートファジー機能が弱まると、細胞に傷がついて、癌化する原因になります。
脂肪肝では、このオートファジー機能が異常をきたしていて、肝臓に脂肪が付く原因となっています。
脂肪毒性
肝臓に溜まった脂肪は、Toll-like receptorを介して、NFkBシグナルを活性化することで肝臓に炎症をおこしていしまいます。
腸内環境の変化
脂肪肝では、小腸内細菌異常増殖(SIBO)を生じるなど、炎症をおこしてしまいます。
これらの、酸化ストレス、小胞体ストレス、オートファジー、脂肪毒性、腸内環境はとても重要なので、言葉だけでも覚えておくといいと思います。
内臓脂肪・脂肪肝を推測する
血液検査で脂肪肝を推測する方法
自分に脂肪肝があるかどうかを把握しておくことは大事です。
ここでは、毎年受けているであろう健康診断の結果で脂肪肝を推定する方法をお示します。
- GOT (AST) <GPT (ALT)
- γGTP>尿素窒素
- 中性脂肪>150
- コリンエステラーゼ>280
このようなものに当てはまる場合、脂肪肝の可能性があります。
かつての私の血液検査
GOT(ALT) | 30 |
GPT(ALT) | 46 |
γGT | 24 |
尿素窒素 | 11.4 |
中性脂肪 | 468 |
このようなものに当てはまる場合、脂肪肝の可能性があります。
CTで皮下脂肪・内臓脂肪をみてみる
今回、自分の脂肪を把握するにあたり、自分の皮下脂肪・内臓脂肪をCTで計測してみました。
肥満学会のガイドラインによると、内臓脂肪面積が100cm2を超えると、内臓脂肪型肥満と判定します。
私の内臓脂肪(緑色のところ)
計測すると、内臓脂肪が110cm2で、内臓脂肪型肥満確定でした orz
超音波で脂肪肝の有無をみてみる
脂肪肝は、超音波検査で腎臓と肝臓のエコーコントラストで見ることができます。
今回、自分の脂肪を把握するにあたり、みてみました。
超音波検査:
模式図
肝臓の明るさと、腎臓の明るさを比べた時に、肝臓の方が白っぽく光っているのがわかります。これを腎臓と肝臓のコントラストがある、といい、脂肪肝の特徴なわけです。 orz
キネシオロジーで、肝臓に炎症があるかどうかをみてみる
キネシオロジーでは、肝臓に炎症があるかどうか、肝臓の臓器反射ポイントに触れて筋反射テストをすることでわかります。
以上のような状況であれば、内臓脂肪過多、脂肪肝の可能性がありますので、注意した方がいいでしょう。
ファスティングで内臓脂肪と脂肪肝を改善させよう
さて、内臓脂肪にしても、脂肪肝にしても改善のアプローチは食事と運動の改善です(7)。
食事と運動で体重を7−10%落とすと、肝臓での脂肪変性、炎症、線維化が改善します(8)。
しかし、多くの人にとって、長期間の生活習慣の変化を日常生活に落とし込むことは、なかなか到達しがたいのも事実です(9)。
その困難さを簡便にするひとつのオプションとして、ファスティング(断食)があります。
ファスティングは、数日間食事を摂らないことで、脂質改善、インスリン分泌の低下、インスリン抵抗性の改善が望めるのです(10)。
先ほど、内臓脂肪や脂肪肝を悪化させるメカニズムとして、酸化ストレス、小胞体ストレス、オートファジー、脂肪毒性、腸内環境があるとお話しました。
ファスティングは、これらの全てを改善させることができるので、内臓脂肪、脂肪肝にとても良いと思います。
私の場合
ということで、ファスティングを行うこととしました。
ファスティングのやり方の詳細は、成書を読んでいただくとして、私は5日間のファスティングを行いました。
簡単にお話すると、前準備2日間、断食期間5日間、回復食3日間で行いました。
断食期間中は、酵素ドリンクと呼ばれるものを飲んで、最低限の血糖を維持しつつ、体に必要な栄養素を補給しながら行います。
酵素ドリンク
こうすることによって、水しか飲まない水断食よりもはるかに楽に、仕事をしながらでも行うことができるのです。
行ったことが無い方は、5日も食べないと聞いて、無理、と思われるかもしれませんが、やってみると結構あっという間に過ぎます(笑)。
ファスティングの結果
5日間で体重は5.2Kgの減。
やっている最中は、1日ごとに体重がどんどん減るので、モチベーションが保たれて、続けることができました。
仕事に関しては、ケトン体によるエネルギーになるからか、リラックスした感じの中で行うことができました。
ただ、空腹感はゼロかというとそうではなく、やはり食べたいという気持ちはありました。
けれども、辛くて挫折するほどかというとそういう感じでもありませんでした。
CT(ファスティング後)では、
ファスティング前が内臓脂肪110cm2、後が89.3cm2とかなり減っていました!
超音波では。。。
肝臓と腎臓のコントラストはまだくっきり。脂肪肝に関しては、1回のファスティングでは超音波で目に見えるまでの変化はなかったようです。。精進します。
採血では。。。
ファスティング前 | ファスティング後 | |
GOT(AST) | 30 | 25 |
GPT(ALT) | 46 | 29 |
ファスティング後にはGOT(AST)、GPT(ALT)ともに低下していました。
超音波では見た目には変化ありませんでしたが、採血数値上は炎症は低下していました!
ファスティングを行ってはいけない人
利点が多いファスティングですが、行うことで体調を崩してしまうかたもいらっしゃいます。
肝臓、腎臓、精神疾患、心臓病などを持っている方。
極度に痩せているかたなどは事前に医師の確認が必要です。
また、低血糖や副腎疲労が強い場合は、専門家に相談が必要です❗
おまけ:ファスティング中は臭い!?(生化学)
ファスティング中は脂肪が分解されて、ケトン体が多く産生されます。
ケトン体のひとつである、アセトンは分解されないため、呼気として出ます。
このため、ファスティング中の人では、呼気がアセトンの臭いによりフルーツ様の臭気を放つようになります。
私は、ファスティングするたびに、家族から、「くっさ」と言われます orz。
きっと家族の鼻が効きすぎているだけだと信じています。
まとめ
過栄養を放おって置くと、内臓脂肪が蓄積して、また脂肪肝にもなります。
内臓脂肪・脂肪肝は病気になる因子を出して、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常などを引き起こします。
また、内臓脂肪・脂肪肝は、体の中で常に慢性炎症の状態をつくりだします。
この慢性炎症は、副腎疲労が治らない原因となります。
食事と運動を改善することが改善の一歩ですが、なかなか完遂できる人は少ないのが現状です。
ファスティングは、内臓脂肪や脂肪肝を改善させるエビデンスもあり、比較的短期間に安全に行うことができるので一つのオプションと考えられます。
悪い脂肪をなくして、ファットレスな体にしましょう。
血液検査でGOT (AST) <GPT (ALT)の人、男性で腹囲85cm以上の人、女性で腹囲90cm以上の人は要注意です!
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最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
参考文献
(1)Increased expression in adipocytes of ob RNA in mice with lesions of the hypothalamus and with mutations at the db locus. Maffei M, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 Jul 18;92(15).
and fatty acid-induced insulin resistance. Shi H, et al. J Clin Invest. 2006 Nov;116(11).
(3) Role of the Toll-like receptor 4/NF-kappaB pathway in saturated fatty acid-induced inflammatory changes in the interaction
between adipocytes and macrophages.
Suganami T, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 Jan;27(1):84-91.
(4)Adipose expression of tumor necrosis factor-alpha: direct role in obesity-linked insulin resistance. Hotamisligil GS, et al.
(5)Free fatty acids regulate insulin secretion from pancreatic beta cells through GPR40. Itoh Y et al. Nature. 2003 Mar 13;422.
(6)NAFLDの複雑な病因と病態 池嶋健一 日内会誌,2016
(7)Beneficial effects of lifestyle intervention in non-obese patients with non-alcoholic fatty liver disease. Wong VW, et al. J Hepatol. 2018 Dec;69(6).
(8)Randomized controlled trial testing the effects of weight loss on nonalcoholic steatohepatitis. Kittichai Promrat, et al. December 2009.
(9)Reduction of diabetes risk in routine clinical practice: are physical activity and nutrition interventions feasible and are the outcomes from reference trials replicable? A systematic review and meta-analysis. Cardona-Morrell M,et al. BMC Public Health. 2010 Oct 29;10:653.
(10)Fasting therapy for treating and preventing disease – current state of evidence. Michalsen A et al. Forsch Komplementmed. 2013;20(6).
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1975年横浜生まれ、2021年9月に東京原宿クリニックを開設。内科医、呼吸器内科専門医、アレルギー専門医として豊富な経験を持つ。現在は、一般内科診療をはじめ、栄養療法・点滴療法、カウンセリングを組み合わせた総合的な健康サポートを行いながら、患者さん一人ひとりの生活の質向上をサポート。自身の体調不良経験から、従来の西洋医学に加え、栄養療法の重要性を実感。最新の医学知識の習得に励み、患者さんにとってより良い医療の提供に取り組んでいる。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床分子栄養医学研究会認定指導医。