表参道・原宿の東京原宿クリニック院長の篠原です。
私たちの生きる現代社会は、かつてないほどの速度で変化し、先行きの見えない状況が続いています。そして、大きな不安を抱えているということはないでしょうか。このような時代を的確に捉える言葉として、VUCA(ブーカ)という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。しかし近年、このVUCAの概念をさらにアップデートし、現代の様相をより深く表現するBANI(バニ)という新たなフレームワークが提唱されています。
本日は、このBANIとは何か、そして、この“脆さ”と“不安”が色濃い時代において、私たちが専門とする栄養療法や機能性医学が心身の健康維持、そしてレジリエンス(精神的回復力・抵抗力)の向上にどのように貢献できるのかをお話ししたいと思います。
当院では、栄養外来にて、BANI時代に生き抜くための体質改善を栄養外来で診療していますので、ご興味のある方はご検討いただければと思います。

Contents
VUCAからBANIへ──“不確実”から“脆さと不安”へアップデートされた世界観
まずは、今後生きていくために必要な知識としての、VUCAとBANIについての基本についてチェックしてきましょう。私達が不安にさらされてしまうのも無理がない世界に生きているということがわかってくるかと思います。
VUCA時代に求められた適応力とは
VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。もともとは1980年代後半に軍事用語として登場し、冷戦後の複雑化した国際情勢を表現する言葉でしたが、後にビジネス界隈でも広く採用されるようになりました。
VUCAの時代においては、変化のスピードが速く(変動性)、将来の予測が困難で(不確実性)、多くの要因が複雑に絡み合い(複雑性)、何が真実かを見極めるのが難しい(曖昧性)状況への適応力が求められました。企業戦略やリーダーシップ論において重要なキーワードとなり、情報収集と分析の効率化、DXの推進、アジャイルなアプローチなどが重視されてきました。

BANIが映し出す4つの新リスク(Brittle/Anxious/Non-linear/Incomprehensible)
VUCAが提唱されてから数十年が経過し、世界の状況はさらに変化しました。特に新型コロナウイルスのパンデミックは、既存のシステムのもろさや人々の不安を露呈させ、VUCAだけでは現代の混沌を十分に表現しきれないという認識が広がりました。
そこで、アメリカの未来学者ジャメイ・カシオ氏によって提唱されたのがBANIです。BANIは以下の4つの要素の頭文字から構成されています。
- Brittle(脆い): 一見堅牢に見えるシステムや仕組みも、限界点に達すると予期せず急激に崩壊しうる状態。効率化を追求しすぎた結果、冗長性や回復力を失った現代社会の脆弱性を指します。
- Anxious(不安な): 将来への漠然とした恐れやストレスが高まっている状態。情報過多や誤情報の拡散、常に評価されるプレッシャーなどが人々の不安を増幅させます。
- Non-linear(非線形の): 因果関係が直線的でなく、小さなきっかけが予測不能な大きな結果を招いたり、逆に多大な努力が成果に結びつかない状態。過去の延長線上に未来を描けない世界です。
- Incomprehensible(理解不能な): 物事があまりに複雑化し過ぎて、全体像や本質を人間が把握しきれない状態。情報過多やAIのブラックボックス化などがこの状況を加速させます。
BANIは、VUCAが客観的な環境を描写していたのに対し、人間の感じ方や脆弱性に焦点を当て、より主観的な視点から状況の性質を表現している点が特徴です。「もろさ」「不安」といった心理的側面や、「非線形性」「理解不能性」といったより深刻な混沌の度合いを言語化しています。
ヘルスケア領域に与えるインパクト:患者行動と医療体制の“脆さ”
BANIへの移行は、ヘルスケア領域にも大きなインパクトを与えています。患者さんは情報過多の中で「何を信じれば良いのか」と強い不安を抱えて医療機関を訪れるケースが増えています。特に、従来の保険診療では解決しない不調に悩む方々は、ご自身で情報を集める中でさらに不安が募ることも少なくありません。
また、医療提供体制自体も、需要急増に対して脆弱であることが露呈しました。これは、経営の効率性を追求するあまり、予期せぬ事態への対応余力が失われている状況を反映していると言えるでしょう。私たち医療者も、このようなBANI時代の特性を理解し、患者さんの不安に寄り添い、信頼関係を構築していくことの重要性を再認識する必要があります。

BANIに脅かされているかどうかのセルフチェックテスト
どの程度BANIの影響を受けているのか、セルフチェックをしてみましょう。
BANI時代の健康課題:慢性炎症・HPA軸ストレス・腸脳相関の乱れ
BANI時代特有の「脆さ」や「不安」は、私たちの心身に具体的な健康課題を引き起こします。特に、慢性炎症、ストレス応答システムであるHPA軸の機能障害、そして腸脳相関の乱れは、現代人が抱える不調の根底にある重要な問題です。
慢性ストレスが引き起こすHPA軸機能障害と“副腎疲労”
私たちの身体は、ストレスを感じるとHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)が活性化し、コルチゾールなどのストレスホルモンを分泌して対抗しようとします。しかし、BANI時代のような慢性的なストレスにさらされ続けると、このHPA軸のバランスが崩れてしまいます。
これが、いわゆる「副腎疲労」と呼ばれる状態(より正確にはHPA軸機能障害:HPA-D)です。副腎疲労については、こちらも御覧ください。コルチゾールの分泌リズムが乱れることで、エネルギー産生の低下、睡眠障害、免疫力の低下、気分の落ち込み、集中力低下など、様々な心身の不調が現れます。BANIがもたらす持続的な不安感は、このHPA軸の疲弊を加速させる大きな要因となります。

“もろい”免疫系──慢性炎症が全身疾患を雪だるま式に拡大
BANIにおける「脆さ」は、私たちの免疫システムにも影響を及ぼします。持続的なストレスや不適切な生活習慣は免疫機能を弱体化させ、感染症にかかりやすくなるだけでなく、体内で微弱な炎症が持続する「慢性炎症」状態を引き起こしやすくなります。
この慢性炎症は、サイレントキラーとも呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、動脈硬化、糖尿病、自己免疫疾患、アレルギー疾患、がん、そしてうつ病や認知症といった精神神経疾患など、様々な全身疾患の発症や悪化に関与していることが分かっています。BANI時代における社会の不安定さや環境汚染なども、この慢性炎症を助長する要因となり得ます。

腸内環境とメンタルヘルス:不安を増幅させるリーキーガット
近年、「脳腸相関」という言葉が示すように、腸と脳は密接に連携し合っていることが明らかになっています。腸内環境の乱れは、脳機能やメンタルヘルスに大きな影響を与えるのです。腸脳相関についてはこちらも御覧ください。
BANI時代のストレスは、腸内細菌叢のバランスを崩し(ディスバイオーシス)、腸の粘膜バリア機能を低下させる「リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)」を引き起こす一因となります。リーキーガットになると、未消化物や毒素、細菌などが血中に漏れ出しやすくなり、全身性の炎症を引き起こしたり、脳にまで影響して不安感やうつ症状を増幅させたりする可能性があります。まさに「不安が腸に、腸の不調が不安に」という悪循環です。

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栄養療法が担う3つの役割:補う・整える・巡らせる
このようなBANI時代の健康課題に対して、栄養療法は非常に重要な役割を担います。私たちは、栄養療法を通じて「補う・整える・巡らせる」という3つのアプローチで、心身の土台を再構築し、レジリエンスを高めることを目指します。
失われやすい必須栄養素を“補う”──タンパク質・ビタミンB群・亜鉛
慢性的なストレス下では、特定の栄養素の消費が激しくなり、欠乏しやすくなります。特に、身体の構成成分であり、ホルモンや神経伝達物質の材料となるタンパク質、エネルギー代謝や神経機能に不可欠なビタミンB群、免疫機能や細胞修復に関わる亜鉛などは、意識して補給する必要があります。
これらの栄養素が不足すると、疲労感、気分の落ち込み、免疫力低下など、BANI時代に感じやすい不調がさらに悪化する可能性があります。当院では、詳細な血液検査に基づいて個々の栄養状態を評価し、食事指導や質の高いサプリメントを用いて、これらの必須栄養素を最適量まで「補う」ことを重視しています。
腸と肝を“整える”──プロバイオティクス&フェーズ2解毒栄養素
「腸脳相関」の観点から、腸内環境を「整える」ことは、BANI時代のメンタルヘルスケアに不可欠です。プロバイオティクス(善玉菌)やプレバイオティクス(善玉菌のエサ)の摂取、発酵食品や食物繊維の積極的な摂取を通じて、健康な腸内細菌叢を育成します。
また、体内の毒素を無毒化し排泄する役割を担う肝臓の機能も重要です。肝臓の解毒プロセス(特にフェーズ2)をサポートする栄養素(含硫アミノ酸、ビタミンB群、抗酸化物質など)を補給し、身体のデトックス機能を「整える」ことも、全身の健康維持に繋がります。
抗炎症×抗酸化で“巡らせる”──オメガ3・ポリフェノール・CoQ10
慢性炎症はBANI時代の健康リスクの根幹にあるため、食事や栄養素を通じて抗炎症・抗酸化力を高め、体内の「巡り」を良くすることが重要です。
炎症を抑える働きのあるオメガ3系脂肪酸(青魚、亜麻仁油、えごま油など)、強力な抗酸化作用を持つポリフェノール(色の濃い野菜や果物、緑茶、カカオなど)、細胞のエネルギー産生を助け抗酸化作用も持つCoQ10などを積極的に摂取することで、炎症の鎮静化と酸化ストレスの軽減を目指します。これにより、細胞レベルでのダメージを防ぎ、身体全体の機能をスムーズに「巡らせる」ことをサポートします。

機能性医学のシステム思考:根本原因に切り込む5R/ATMSモデル
栄養療法と並んで、当院が重視しているのが機能性医学のアプローチです。機能性医学は、対症療法ではなく、症状の根本原因を探求し、身体全体のシステムバランスを整えることを目指す医療です。BANI時代のように複雑で予測困難な状況下では、このようなシステム思考が特に有効です。
5Rプログラムで腸内リセット:Remove・Replace・Reinoculate・Repair・Rebalance
機能性医学において、腸内環境の改善は治療の土台となります。その代表的なアプローチが「5Rプログラム」です。
- Remove(除去): 腸内環境に悪影響を与える病原性細菌、カンジダ、寄生虫、アレルゲンとなる食物などを特定し、食事療法やハーブなどを用いて除去します。
- Replace(補充): 消化酵素や胃酸など、消化吸収に必要な要素を補充し、栄養素の吸収を助けます。
- Reinoculate(再接種): プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いて、腸内に有益な細菌を再接種し、健康な腸内フローラを育てます。
- Repair(修復): L-グルタミン、亜鉛、ビタミンA・Dなどの栄養素を用いて、傷ついた腸粘膜を修復し、リーキーガットを改善します。
- Rebalance(再調整): 食事、睡眠、運動、ストレス管理といったライフスタイル全体を見直し、心身のバランスを再調整し、健康な状態を維持します。
この5Rプログラムを通じて、腸内環境をリセットし、全身の健康回復を目指します。

ATMSマトリクスで多因子アセスメント──Antecedents/Triggers/Mediators/Systems
機能性医学では、患者さんの症状や疾患の背景にある複雑な要因を整理・分析するために、「ATMSマトリクス」というツールを用いることがあります。
- Antecedents(先行因子): 遺伝的素因、幼少期の環境、過去の病歴など、現在の健康問題の土壌となった可能性のある要因。
- Triggers(誘発因子): ストレス、感染症、外傷、毒素曝露など、実際に症状や疾患の発症の引き金となった要因。
- Mediators(媒介因子): 炎症性サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質など、症状を持続させたり悪化させたりしている生化学的な要因。
- Systems(システム): これらの因子が、消化器系、免疫系、内分泌系、神経系など、身体のどのシステムに影響を与えているか。
このマトリクスを用いることで、一見バラバラに見える症状や情報を統合的に理解し、個々の患者さんに最適化された治療戦略を立てることができます。BANIのような非線形で不可解な問題に対しても、多角的な視点からアプローチする助けとなります。

エビデンスを裏付ける最新検査:有機酸・遅延型アレルギー・遺伝子解析
機能性医学では、標準的な血液検査に加え、より詳細で専門的な検査を活用することで、根本原因の特定に役立てます。
- 有機酸検査(OATs): 尿中の有機酸を測定することで、ミトコンドリア機能、ビタミン・ミネラルの過不足、腸内細菌叢の状態、神経伝達物質の代謝、解毒能力などを評価します。
- 遅延型フードアレルギー検査(IgG検査): 特定の食物に対するIgG抗体の量を測定し、数時間から数日後に現れる遅延型のアレルギー反応の原因となりうる食物を特定します。慢性的な炎症や不調に関与していることがあります。
- 遺伝子解析: 遺伝的な体質(特定の栄養素の要求量が高い、特定の疾患リスクが高いなど)を把握し、より個別化された予防策や治療法を検討する手がかりとします。
これらの最新検査は、経験や直感だけでなく、客観的なデータ(エビデンス)に基づいて治療方針を決定するために重要です。ただし、検査結果の解釈には専門的な知識と経験が必要であり、結果だけに囚われず、患者さん全体のストーリーと照らし合わせることが肝要です。

BANI時代のレジリエンスづくり実践ガイド
BANI時代を健やかに生き抜くためには、日々の生活の中でレジリエンス(しなやかな心の回復力・抵抗力)を高める実践が不可欠です。栄養療法と機能性医学の知見に基づいた、具体的な実践ガイドをご紹介します。
朝食タンパク質+低GIで“血糖メンタル”を安定化
血糖値の急激な変動は、気分の浮き沈みや集中力の低下、不安感などを引き起こし、「血糖メンタル」とも呼ばれるほど精神状態に影響します。特に朝食は、1日の血糖コントロールの鍵を握ります。
朝食にタンパク質(卵、魚、鶏肉、大豆製品など)をしっかり摂り、精製された炭水化物(白いパン、菓子パン、シリアルなど)を避けることで、血糖値の急上昇を防ぎ、日中の安定した精神状態とエネルギーレベルを維持しやすくなります。食事全体を通して、野菜や海藻、きのこ類など食物繊維が豊富な低GI(グリセミック・インデックス)食品を選ぶことも重要です。

マインドフルネス+アダプトゲンでHPA軸をリカバリー
慢性的なストレスにさらされるHPA軸をケアするためには、心と体の両面からのアプローチが有効です。
マインドフルネス瞑想は、呼吸や身体の感覚に意識を集中することで、「今ここ」に留まり、ストレス反応を鎮める効果が科学的に示されています。1日数分からでも良いので、日常生活に取り入れてみましょう。
さらに、アダプトゲンと呼ばれるハーブ(アシュワガンダ、ロディオラ、シベリア人参など)や栄養素(ビタミンC、マグネシウムなど)は、HPA軸のバランスを整え、ストレスへの適応能力を高めるのを助けます。これらをサプリメントとして活用することも、HPA軸のリカバリーをサポートする一つの方法です。(※サプリメントの使用は専門家にご相談ください。)

定量チェック→サプリ最適化:当院のラボデータ徹底活用術
「なんとなく調子が悪い」という感覚的な状態から一歩進んで、客観的なデータに基づいて健康状態を把握し、対策を最適化することが重要です。
当院では、詳細な血液検査や有機酸検査などのラボデータ(定量チェック)を重視しています。これにより、栄養素の過不足、炎症の程度、ホルモンバランス、腸内環境の状態などを具体的に把握することができます。そのデータに基づいて、必要な栄養素の種類や量を判断し、サプリメントの処方を最適化します。定期的な再検査によって効果を検証し、必要に応じてプランを調整していくことで、より効率的かつ効果的にレジリエンスを高めることができます。

まとめ──“脆さ”を“反脆弱性”へ変えるために
VUCAからBANIへと移り変わる現代は、確かに「脆さ」や「不安」に満ち、予測困難で理解しがたいことが多い時代かもしれません。しかし、それは同時に、私たちが自身の心身を見つめ直し、真の健康とは何かを追求する機会でもあると考えています。
栄養療法×機能性医学の統合こそBANIへの最適解
本記事でご紹介してきたように、栄養療法は身体の生化学的な土台を強化し、機能性医学はシステム全体の調和を取り戻すことで、BANI時代がもたらす複雑な健康課題に対して多角的にアプローチします。
- 必須栄養素を「補う」ことで、ストレスによる消耗に対応し、エネルギー産生や神経機能をサポート。
- 腸内環境や解毒機能を「整える」ことで、免疫・神経・内分泌系のバランスを回復。
- 抗炎症・抗酸化力を高めて「巡らせる」ことで、慢性炎症を鎮静化し、細胞レベルでのダメージを軽減。
そして、詳細な検査に基づいた根本原因の特定と、個別化された介入を組み合わせることで、単に症状を抑えるのではなく、心身のレジリエンスを高め、変化に柔軟に対応できる「しなやかさ」を育むことを目指します。この統合的アプローチこそ、BANIの時代を生き抜くための最適解の一つであると、確信しています。
私たちは、「脆さ(Brittle)」を嘆くのではなく、それをバネにして、衝撃やストレスから学び、より強くなる「反脆弱性(Antifragility)」を獲得することを目指すべきです。栄養療法と機能性医学は、そのための力強い味方となってくれるでしょう。体質改善にご興味のある方は栄養外来をご検討ください。
最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
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