表参道・原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。
薄毛や脱毛に悩んでいる方へ。髪が薄くなったり抜けたりすると、とても不安になりますよね。実は、一口に「脱毛症」といっても様々な種類があり、その原因も一人ひとり異なります。本記事では、円形脱毛症、加齢性の脱毛、びまん性脱毛、女性型脱毛症(FAGA)、男性型脱毛症(AGA)、瘢痕性脱毛症など主な脱毛症の特徴を紹介し、栄養療法・機能性医学の視点からそれぞれの根本原因にアプローチする方法を解説します。髪の悩みの裏にある体の不調サインを理解し、原因に向き合うことで、時間はかかっても改善の道筋が見えてきます。希望をもって取り組んでいきましょう。
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Contents
脱毛症の種類とそれぞれの特徴
まずは代表的な脱毛症の種類とその特徴を見てみましょう。脱毛症のタイプによって原因や現れ方が異なるため、対策も少しずつ変わってきます。
円形脱毛症(自己免疫性の脱毛)
円形脱毛症は突然円形のはげた箇所ができる脱毛症です。免疫システムが誤って自分の毛根を攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられており、T細胞という免疫細胞が成長期の毛包を攻撃することで髪が抜けます (論文)。滑らかな円形の脱毛斑ができるのが典型で、進行すると頭髪全体(全頭脱毛症)や体中の毛(汎発脱毛症)まで失う場合もあります。子どもから大人まで男女問わず発症し、自己免疫反応が関与する点が特徴です。
男性型脱毛症(AGA)
男性によく見られる男性型脱毛症(AGA)は、額の生え際や頭頂部の髪が徐々に薄くなる脱毛症です。主な原因はホルモンと遺伝で、テストステロンから変換されるDHT(ジヒドロテストステロン)というホルモンが毛包に作用してヘアサイクルを短縮させ、髪を細く短くしてしまいます (参考)。額が後退したり頭頂部がはげ上がる典型的なパターン(ノウッドの分類)があり、思春期以降の男性で進行します。女性にも稀に同様のパターンが起こることがあります。
女性型脱毛症(FAGA)
女性型脱毛症は、女性にみられるゆっくり進行する脱毛で、頭頂部の分け目を中心に髪が全体的に薄くなるのが特徴です。男性のAGAとは異なり、女性ホルモン(エストロゲン)の低下やホルモンバランスの乱れが関与します。特に更年期や産後に急激なエストロゲン低下が起こると髪が細くコシがなくなることがあります (参考)。女性の場合はびまん性(全体的)に髪密度が減る傾向が強く、「髪全体のボリュームダウン」として自覚されることが多いです。

びまん性脱毛症(休止期脱毛など)
髪全体がなんとなく薄くなるびまん性脱毛は、特定の部位ではなく頭髪全体の密度が減少するタイプの脱毛です。これは休止期脱毛(テロゲンエフルビウム)とも呼ばれ、ストレスや栄養不足、ホルモン変動など体の変調で一時的に髪が大量に休止期に入り抜け落ちる状態です。例えば、出産後や急激なダイエット後、重い病気や高熱のあとなどに一時的な大量脱毛が起きることがあります。原因が解消すればまた生えてくる一過性のことも多いですが、原因が続くと慢性化することもあります。
加齢による脱毛・薄毛
年齢とともに髪が細くコシがなくなり、密度も減っていくのは加齢性の脱毛と言えます。男性の場合はAGAとして現れることが多いですが、女性でも閉経後にホルモンの変化で髪がやせていきます。老化による代謝低下や血行不良、長年の栄養不足の積み重ねなど様々な要因が関与します。「最近髪に元気がない」「ボリュームがなくなった」と感じる中高年の方は、このタイプの脱毛がゆっくり進行しているかもしれません。
瘢痕性脱毛症(傷あとによる脱毛)
瘢痕性脱毛症は、毛包が破壊されてしまい二度と髪が生えなくなるタイプの脱毛症です。自己免疫の病気(例:膠原病の一種である皮膚エリテマトーデス)や、重度の炎症(ひどい毛包炎やけがの後など)で毛穴の組織が瘢痕化(傷あと化)すると、その部分では毛が再生できなくなります。早期に炎症を食い止めることが大切ですが、進行するとその部分は永久的な脱毛になってしまいます。瘢痕性脱毛症は全脱毛症の中ではまれですが、一部の自己免疫疾患や慢性炎症性疾患に伴って起こることがあります。

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腸内環境(リーキーガット・腸内フローラ)と髪の関係
最近の研究から、腸内環境と皮膚・毛髪の健康が深く関わっていることが分かってきました。腸は栄養の吸収だけでなく、免疫の司令塔でもあります。実に体内の免疫細胞の約7割が腸に集まっており、腸の状態が乱れると全身の炎症や自己免疫反応につながりやすくなります。(腸と免疫についての関係についてはこちらをご参照ください)。例えば円形脱毛症は免疫が毛根を誤って攻撃する病気ですが、腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)が一因となり得ると考えられています。実際に、健康な人の腸内細菌を移植する糞便移植で腸環境を整えたところ、円形脱毛症が改善したケースも報告されています。腸の粘膜のバリアが弱くなるリーキーガット(腸もれ)の状態では未消化物や毒素が漏れ出し炎症を引き起こすため、これが毛包にも悪影響を与える可能性があります。
腸内フローラの健全化は、栄養吸収を高めるだけでなく免疫調整やホルモンバランス維持にも寄与し、結果的に毛髪の健康を支える重要な土台となります。機能性医学では「腸を治せば髪も肌も良くなる」と言われるほどで、脱毛に悩む方に対してGI-MAPなどの包括的な便検査で腸内の状態や潜在的な感染をチェックし、プロバイオティクスや食事指導で腸を整えるアプローチが重視されます。腸内環境を改善することは即効性はありませんが、髪の土壌を肥やすイメージでじっくり取り組んでみましょう。

栄養素の不足と髪への影響
髪は身体の栄養状態を映す鏡とも言われます。髪の生成にはたくさんのビタミンやミネラル、たんぱく質が必要で、どれか一つが不足してもうまく作られません。極端な食事制限や偏った食生活をしていると、栄養不足によって髪が細く弱くなり、抜け毛が増えることがあります。特に以下の栄養素不足は脱毛との関連が知られています。
- 鉄分不足:鉄は毛根への酸素供給に不可欠な要素です。鉄不足により毛母細胞への酸素供給が低下すると、髪の成長が阻害され細く弱い毛しか生えなくなります (参考)。鉄欠乏は毛母細胞を成長期から休止期へ移行させてしまうため、慢性的な鉄不足はびまん性脱毛(休止期脱毛)の大きな原因になります。特に月経のある女性は貧血になりやすく、慢性的な鉄不足による抜け毛に悩む方も少なくありません。鉄補給で髪が復活するケースも多いので、フェリチン値(貯蔵鉄)を含めた血液検査で鉄状態を確認することが大切です。ただし、むやみに鉄を補給することの危険性もありますので、検査はとても必要と考えます。鉄欠乏についてはこちらもご参照ください。
- 亜鉛不足:亜鉛は細胞分裂やタンパク合成に関わる必須ミネラルで、毛髪ケラチンの生成にも必要です (論文)。亜鉛が不足すると細胞増殖がうまくいかず、毛が細くなったり成長が止まったりします。また頭皮の皮脂バランスにも影響し、亜鉛不足はフケや乾燥の原因にもなります。研究では、脱毛症患者では健常者に比べて血中亜鉛が有意に低いことが報告されています。さらに、休止期脱毛症や円形脱毛症の患者で亜鉛不足を補正したところ発毛が見られたという報告もあり、亜鉛補給によりこれらの脱毛が改善しうることが示唆されています。食事では肉類、魚介、ナッツなどに含まれますが、不足が疑われる場合はサプリメントでの補充も検討します(ただし過剰もよくないため医師と相談が必要です)。亜鉛不足についてはこちらもご参照ください。

- ビタミンD不足:ビタミンDはカルシウム代謝だけでなく免疫調整や細胞の成長分化にも関わり、毛包にはビタミンD受容体が存在します (論文)。血中ビタミンDが低い人ほど脱毛症(特に円形脱毛症やびまん性の非瘢痕性脱毛)が多いとの研究が複数あり、ビタミンD不足と脱毛には逆相関の関係が認められています。実際、円形脱毛症の患者さんでは血中ビタミンDが不足しているケースがしばしば見られます。日光浴や食事(魚やきのこ類)でビタミンDを補給し、必要に応じてサプリメントで適正範囲に改善することで、毛包の正常なサイクルを取り戻す助けになるかもしれません。ビタミンD不足についてはこちらもご参照ください。
- ビオチン(ビタミンB7)不足:ビオチンは「髪のビタミン」とも呼ばれ、ケラチン生成に関与するビタミンB群です。重度の欠乏では皮膚炎や脱毛が起こりますが、通常の食生活で欠乏することはまれです。ただ近年のある調査では、脱毛症に悩む女性の約38%に血中ビオチン低値が認められたとの報告もあり (参考)、一部では潜在的な不足が髪質低下に関与している可能性があります。ビオチンは卵やナッツ、豆類に含まれます。サプリメントも市販されていますが、大量摂取は避け、他の栄養とのバランスが大切です。

この他にも、タンパク質不足(極端なダイエットで起こることがあります)や、ビタミンB群・ビタミンE、必須脂肪酸不足なども髪の成長不良を招きます。偏食の自覚がある方、髪だけでなく爪や肌の状態も悪い方は、まず食生活の見直しから始めましょう。必要に応じて医療機関で栄養状態をチェックし、不足を補えば、それだけで抜け毛が改善するケースも少なくありません。
ホルモンバランスの乱れと脱毛
ホルモンは髪の成長に大きな影響を与えます。男性ホルモン、女性ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎ホルモンなどのバランスが崩れると、それがシグナルとなって脱毛が進行することがあります。機能性医学ではホルモンの総合的なバランスを見ることで、脱毛の根本要因を探ります。
- 男性ホルモン(DHT):先述のとおりAGAの主因はDHTです。テストステロンが5α還元酵素によってDHTに変わり、それが毛包をミニチュア化させます。遺伝的に毛包がDHTの影響を受けやすい体質の人では若いうちからAGAが進行します。機能性医学的には、5α還元酵素の働きを抑える栄養(亜鉛やソウパルメットなど)を用いたり、DHTの産生を増やすインスリン抵抗性(血糖の乱高下)を是正するといったアプローチがあります。また、女性でも多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などで男性ホルモン過剰の状態になると、前髪の生え際付近が薄くなるような男性型の脱毛が起こることがあります (参考)。この場合はインスリン抵抗性の改善(食事療法や適度な運動)やホルモン治療によって対処します。
- 女性ホルモン(エストロゲン):エストロゲンは髪の成長期を延長させる作用があり、女性の豊かな髪を維持するのに寄与しています。エストロゲンが急激に変動すると髪にも影響が出ます。典型例が出産後の脱毛です。妊娠中はエストロゲンが高く保たれるため髪が抜けにくいのですが、出産後に急降下すると一気に休止期に入った髪が抜け落ちます(産後脱毛症)。また更年期にエストロゲンが減少すると髪が細くハリ・コシが失われていきます。機能性医学では、食事やハーブ(エクオール産生を促す大豆製品やリグナンを含むアマニなど)でエストロゲン様作用をサポートしたり、必要に応じてホルモン補充療法も検討します。

- 甲状腺ホルモン:甲状腺ホルモンは新陳代謝のエンジンです。不足しても過剰でも髪に影響を与えますが、特に甲状腺機能低下症(橋本病など)では抜け毛がよく見られます。甲状腺ホルモンが足りないと毛周期が停滞し、新しい髪が生えにくくなるためです。眉毛の外側1/3が抜けるのも低下症のサインとして有名です。一方、甲状腺機能亢進症でも毛が細くなったり抜けやすくなったりします。機能性医学では、甲状腺機能に異常があればその原因(自己免疫によるものか、栄養不足(ヨウ素・セレン不足等)か、ストレスか)を調べ、必要に応じて甲状腺ホルモン剤の補充や生活改善を行います。甲状腺を整えることで髪の状態も改善していきます。甲状腺ホルモンについてはこちらもご参照ください。
- 副腎ホルモン(ストレスホルモン):慢性的なストレスでコルチゾールなど副腎から出るホルモンが乱れると、間接的に性ホルモンや甲状腺ホルモンのバランスも崩れます。機能性医学では「副腎疲労(アドレナルファティーグ)」といって、副腎が疲れてホルモン分泌リズムが乱れた状態を重視します。副腎疲労ではDHEAや男性ホルモンの代謝に影響し、男女とも脱毛を招く可能性があります。実際、副腎を休めストレス管理をすることで抜け毛が改善した例もあります。毎日の睡眠やリラックスが、髪のためにも大切なのです。副腎疲労についてはこちらもご参照ください。

このようにホルモンバランスはデリケートで、髪への影響も大きいもの。産後や更年期、ストレスフルな時期に脱毛が増えるのは体からのサインとも言えます。機能性医学では必要に応じてホルモン検査を行い、根本的な調整を目指します。ご自身でも生活リズムを整えたり、血糖値の急上昇を避ける食事でホルモンの安定化を図るなど、できることから始めてみましょう。
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ストレスと自律神経の関係
「ストレスで髪が抜ける」という話、聞いたことがあるかもしれません。これは決して気のせいではなく、科学的にもストレスと脱毛の関連は認められています。強い精神的ショックや慢性ストレス下では、多くの毛包が一斉に成長期から休止期へ移行し、数か月後に一斉脱毛(休止期脱毛症)が起こることがあります。過労や睡眠不足が続いたり、受験や仕事でプレッシャーが大きい時期に、抜け毛が増えたり髪が細くなったと感じた経験のある方もいるでしょう。
ストレスがかかると自律神経は交感神経優位(いわゆる戦う・逃げるモード)になりやすく、頭皮の血管が収縮したり消化吸収機能が低下したりします。その結果、毛根への栄養供給が悪くなり、またストレスホルモンの影響で毛周期が乱れてしまいます。慢性的なストレスは全身の炎症反応も高めますが、毛包は本来「免疫特権部位」といって過剰な免疫攻撃から守られている場所です。しかしストレスにより炎症性物質が増えるとこの毛包の免疫特権が破綻し、自己免疫的な攻撃を受けやすくなるとも言われます。円形脱毛症がストレスをきっかけに発症・悪化することが多いのはそのためかもしれません。
また、ストレスで自律神経失調になると、頭皮だけでなく腸の動きも悪くなり腸内環境の乱れにつながります。先ほど述べたように腸の乱れは髪にも跳ね返ります。さらに、慢性的ストレスは栄養の消耗も招きます。ビタミンCやマグネシウム、ビタミンB群などストレス対抗に使われる栄養素が不足すると、髪の生成まで手が回らなくなるのです。
以上のように、ストレスは多方面から髪にダメージを与えます。ですから脱毛治療では、ストレスそのものへの対処も非常に重要です。生活上のストレス要因を減らす工夫をしたり、リラクゼーション法(呼吸法、ヨガ、瞑想など)を取り入れることは髪のためにも有効です。また、十分な睡眠をとることで成長ホルモンの分泌が促され、細胞修復が進みます。自律神経を整えるハーブ(カモミールやラベンダー、レモンバーム等)や、心を落ち着かせる栄養素(マグネシウム、GABAなど)を活用するのも良いでしょう。心身のケアは髪のケアにつながります。抜け毛が気になるときこそ、自分をいたわる時間を増やしてみてください。自律神経の安定についてはこちらもご参照ください。

重金属やマイコトキシン(カビ毒)など「毒素」の影響
現代の環境には様々な有害物質(トキシン)が存在し、知らず知らずのうちに私たちの体に蓄積していることがあります。こうした重金属や化学物質、カビ毒(マイコトキシン)などの毒素も、機能性医学では脱毛の原因として注目されます。体内に毒素が溜まると、直接毛包にダメージを与えたり、ホルモンや免疫のバランスを乱して間接的に脱毛を引き起こすことがあるからです。
重金属と脱毛
古くから知られる例として、タリウムやヒ素といった重金属中毒では激しい脱毛が起こります。タリウムはかつて殺鼠剤に使われ、誤って摂取すると全身の毛が抜けるほど強烈な毒性を示しました。このような劇症ではなくても、水銀、鉛、カドミウム、アルミニウムなどの重金属が長期にわたり体内に蓄積すると、毛母細胞の働きを阻害したり栄養素の利用を妨げたりして、慢性的な脱毛の一因となり得ます。例えば水銀はミトコンドリアを傷つけ細胞のエネルギー産生を低下させますし、鉛は亜鉛や鉄と拮抗してそれらの不足状態を招きます。重金属はしばしば甲状腺機能や副腎機能にも悪影響を及ぼすため、ホルモンバランスの乱れを通じて脱毛につながることもあります。
重金属による影響は通常の血液検査では捉えにくく、機能性医学では毛髪ミネラル検査や尿中有害元素検査などで負荷を評価します。治療としては、キレート療法(体内の重金属を捕捉して排泄させる)や、デトックスを助ける栄養・サプリメント(亜鉛、セレン、アルファリポ酸、ビタミンC、そして主要な解毒抗酸化物質であるグルタチオンなど)を用います。幸い、重金属が原因であれば除去することで毛髪が改善する可能性があります。

カビ毒(マイコトキシン)と脱毛
マイコトキシンとは、カビ(真菌)が産生する毒素です。住宅のカビ汚染(いわゆる黒カビ)に長期間さらされると、このマイコトキシンが体内に蓄積し、様々な不調をきたすことがあります。その一つが脱毛です。カビ毒は慢性的な炎症を引き起こし、免疫の過剰反応やホルモンかく乱を招きます。例えばカビ毒への反応で頭皮に炎症が起これば毛根への血流や栄養が滞り、髪が抜けやすくなります。またカビ毒はコルチゾールなどストレスホルモンの分泌を攪乱したり、エストロゲンや甲状腺ホルモンの受容体に影響してホルモン不調を引き起こすこともあります。その結果、毛周期が乱れて休止期脱毛(テロゲンエフルビウム)が誘発されることがあります。
さらに、カビ毒は腸に侵入して栄養の吸収を妨げることでも髪に悪影響を及ぼします。ビオチンやビタミンD、亜鉛など髪に必要な栄養素がうまく吸収されなくなると、毛包の働きが低下してしまいます。
カビ毒の影響は見逃されがちですが、室内環境のチェックも重要です。慢性的な原因不明の体調不良や脱毛がある場合、自宅や職場のカビ汚染を疑い、必要なら環境の改善とマイコトキシン除去のプログラム(活性炭などでの吸着、グルタチオン補充による解毒促進など)を行うことで、髪の状態が改善する可能性があります。マイコトキシンについてはこちらもご参照ください。

慢性感染症と脱毛の関係
体内に潜む慢性感染も、脱毛の隠れた原因となることがあります。感染症というと急性のイメージがありますが、症状がはっきり出ないまま慢性化し、じわじわと体に炎症や免疫異常を起こすタイプの感染があります。これが髪に影響することがあるのです。
- ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染:胃に住みつくピロリ菌は胃炎や胃潰瘍の原因として知られていますが、実は自己免疫疾患との関連も指摘されています (論文)。ピロリ菌感染によって免疫系が慢性的に刺激されると、自己免疫反応が誘発されやすくなるという説です。このように、胃の中の感染を治療したら髪が生えてきたという例もあるのです。ピロリ菌は日本人の多くが持っている菌ですが、除菌により胃の症状だけでなく全身の炎症負荷が減ることで、間接的に髪にも良い影響を与える可能性があります。ただし、ピロリ菌は胃カメラなどの検査では見つかりづらいため、GIMAPなどの特殊な検査でないと検出できない可能性が高いです。
- 腸内感染・腸内細菌の異常増殖:腸は前述の通り免疫の中心です。慢性的な腸内感染(例えば慢性大腸炎を起こすような細菌感染や寄生虫感染)があると、全身に炎症性物質が放出され毛包にもダメージが及ぶことがあります。また小腸内細菌増殖症(SIBO)のように本来少ないはずの小腸に細菌が増えすぎる状態や、カンジダ菌の過剰増殖なども、栄養吸収障害や免疫異常を通じて脱毛を悪化させることが考えられます。機能性医学では便や尿の検査で腸内の潜在感染をチェックし、ハーブの抗菌剤やプロバイオティクスで腸内環境を正常化することで、結果的に髪の状態が改善するケースもあります。
- 口腔内の慢性炎症(歯周病など):意外かもしれませんが、歯周病など口の中の慢性炎症も脱毛と関係する可能性があります。最近の研究で、重度の歯周病患者はそうでない人に比べ円形脱毛症を発症するリスクが高いことが報告されました (参考)。歯周病菌が放出する内毒素や炎症性物質が全身に波及し、自己免疫的なメカニズムを促進してしまうのではないかと考えられています。慢性副鼻腔炎や扁桃炎など他の部位の慢性炎症も、全身の免疫バランスに影響して髪に悪影響となり得ます。

このように、「局所の感染症や炎症が遠く離れた毛髪に影響を及ぼすのか?」と思われるかもしれません。しかし体はつながっています。慢性炎症や感染は常に免疫を刺激し続け、全身性の炎症体質や自己免疫状態を招き、それが毛包における炎症脱毛や自己免疫性の脱毛(円形脱毛症)を誘発し得るのです。したがって脱毛症の根本原因を探る際には、歯や胃腸など髪とは一見関係なさそうな場所の感染もしっかりチェックし、必要なら専門医で治療することが大切です。
円形脱毛症と自己免疫反応(T細胞の関与)
円形脱毛症については既に触れましたが、ここでは特に自己免疫の観点から補足します。円形脱毛症は代表的な自己免疫性脱毛症であり、毛包が自己の免疫に攻撃されてしまう病態です (論文)。本来、毛包(毛根部)は「免疫特権部位」といって外敵とみなされないよう守られているのですが、この特権が破綻し、免疫細胞が毛を異物とみなすことで炎症が起こります。円形脱毛症の患部を生検すると、毛根周囲にリンパ球(主にT細胞)がびっしり取り巻いているのが確認されます。これを「スウォーム(蜂群)サイン」と呼び、T細胞が毛包を攻撃している証拠です。
特にサイトトキシックT細胞(CD8陽性T細胞)が中心的な役割を果たし、毛母細胞を傷害すると考えられています。免疫学的にはTh1型のサイトカイン環境が毛包に生じ、インターフェロンγなどが発現していることが報告されています。また円形脱毛症患者では他の自己免疫疾患(甲状腺炎、白斑、アトピーなど)を合併しやすいことも知られ、遺伝的背景と環境要因(ストレスや感染など)が組み合わさって発症に至ると考えられます。
この自己免疫反応を鎮めることが円形脱毛症治療の鍵となります。従来はステロイドの局所注射や内服によって炎症を抑える治療が一般的でした。近年ではJAK阻害剤という免疫シグナルを遮断する新しい内服薬も登場し、難治性の重症例で効果を上げています。ただ、機能性医学の視点では「なぜ自己免疫反応が起きたのか」という根本に立ち返り、免疫の暴走を引き起こした要因(前述の腸内環境の乱れ、栄養欠乏、感染、ストレスなど)を是正するアプローチを取ります。
例えば、亜鉛やビタミンDを補充して免疫バランスを整えたり、グルテンなど腸を刺激しやすい食物を除去して抗炎症的な食生活に切り替えることで、自己免疫反応が和らぎ髪が再生したという報告もあります。実際、円形脱毛症は自然寛解・再発を繰り返すことも多い疾患ですが、体質改善に取り組むことで再発間隔が伸びたり症状が軽減したりするケースは少なくありません。自己免疫疾患との付き合いは根気が要りますが、体全体の健康を底上げすることが髪にも良い結果をもたらすのです。

治療に時間がかかる理由:毛周期を理解する
脱毛症の治療に取り組む上で知っておいていただきたいのは、髪の毛の生え変わるサイクル(毛周期)です。髪は「成長期(アナゲン)」「退行期(カタゲン)」「休止期(テロゲン)」のサイクルを繰り返しています。成長期は頭髪では2〜7年と非常に長く、この間毛包は活発に細胞分裂して髪の毛が伸び続けます。一方、退行期はわずか2〜3週間で毛の成長が止まり、休止期は3〜4か月間毛包がお休みモードになります。休止期が終わると古い毛が抜け落ち(いわゆる抜け毛)、また新たな成長期の毛が生えてきます。通常、全頭の毛包のうち約10〜15%程度が休止期にあると言われます。
ポイントは、いったん休止期に入った毛包は数か月経たないと次の毛が生えてこないということです。このため、原因に対して治療を始めても、すぐには効果が実感できない場合が多いのです。例えば栄養不足が原因で抜け毛が増えていた人が必要な栄養素を摂り始めたとしても、毛包が元気を取り戻し新しい髪を作り出すまでにタイムラグがあります。最低でも3か月、場合によっては6か月〜1年程度は継続してケアした後にようやく「あ、最近抜け毛が減ってきたかも」「新しい毛が生えてきた!」と気づくケースがほとんどです。
また、AGAのように縮小してしまった毛包が相手の場合、育毛成分(ミノキシジルやフィナステリドなど)を使っても毛周期1サイクル分(数か月)は待つ必要があります。円形脱毛症でも、炎症が治まってすぐ発毛するとは限らず、毛包が休止期から成長期に戻るタイミングまで待つことになります。治療開始直後はむしろ休止期だった毛が一斉に抜けて「悪化した?」と感じることもありますが、それは次の新生毛への準備段階かもしれません。
このように毛周期を理解して気長に構えることが、脱毛症克服のコツです。一喜一憂せず、最低でも半年は様子を見るつもりで、根本原因へのアプローチを続けましょう。とはいえ、何も変化がないまま半年以上経過する場合は他の原因が隠れている可能性もあります。その際は再度専門医に相談し、別の角度から原因検索を行うことが大切です。

抜け毛対策に役立つサプリメント
機能性医学のアプローチでは、食事や生活習慣の改善とともにハーブやサプリメントを活用して体の治癒力を高めることがあります。脱毛症に対しても、炎症を抑え免疫を調整するもの、ホルモンバランスを整えるもの、血行促進するものなど、目的に応じた天然成分が利用されています。その中でも代表的なものをいくつかご紹介します。
- 亜鉛:栄養素の項でも述べたように、亜鉛は毛髪には欠かせません。サプリメントとして適切に補うことで、特に亜鉛欠乏が疑われる脱毛症に有効です。実際に、慢性休止期脱毛症の患者に経口亜鉛を投与して発毛を促す治療法も報告されています (参考)。また亜鉛は免疫調整作用も持ち、T細胞の正常な働きを支えるため、自己免疫性の円形脱毛症で不足している場合は積極的に補正します。亜鉛サプリは過剰摂取に注意しつつ、医師の指導の下で行うと安心です。
- ビタミンD:こちらも既に触れましたが、サプリメントとしてのビタミンD補充は円形脱毛症やびまん性脱毛症の補助療法として用いられることがあります。免疫を落ち着かせ、毛包の分化を促すためには適正なビタミンDレベルが必要です。特に日照不足の冬場には意識して補うとよいでしょう。
- グルタチオン:グルタチオンは体内で合成される強力な抗酸化物質で、解毒を担う肝臓でも大量に使われています。慢性炎症やストレスで発生する過剰な活性酸素を中和し、細胞(毛母細胞を含む)を守る役割があります。円形脱毛症では体内の抗酸化酵素(グルタチオンペルオキシダーゼなど)の活性低下や酸化ストレスの亢進が報告されており (論文)、抗酸化対策が有用と考えられます。グルタチオンそのものは経口摂取で吸収されにくい面がありますが、前駆体となるNAC(N-アセチルシステイン)や補酵素のαリポ酸、セレンなどを摂ることで体内合成を助けることができます。医療機関ではグルタチオン点滴療法を行うところもあります。重金属デトックスや肝機能改善にも役立つため、原因不明の脱毛に広く試みられることがあります。
自然の恵みを活用したアプローチは、副作用が少なく体全体にプラスの効果をもたらす反面、即効性はマイルドです。数ヶ月単位で続けることでじわじわ効果が現れることが多いので、焦らず続けることが大切です。また、持病や他の薬との兼ね合いがありますので、サプリメントを始める際は専門家に相談しましょう。

薄毛抗体入りシャンプー・トリートメントで外側からのケア
当院では、Adsorbの薄毛抗体入りのシャンプー・トリートメントの併用をおすすめすることがあります。当製品は原因物質への直接アプローチと頭皮環境の整備を同時に行うユニークな製品です。薬剤ではなく抗体でホルモンや菌に働きかけるため、副作用リスクが低い点も特徴といえます。特徴としては、ダチョウの免疫力の高さを利用し、DHTや5αリダクターゼをターゲットとする抗体を卵黄から抽出し、これにより局所で原因物質を中和することや、単に殺菌するのではなく、フケやかゆみを引き起こす菌のみを狙って抑制し、必要な常在菌は温存する「整菌」発想が取り入れられています。頭皮環境を総合的に整えることで、毛根がダメージを受けにくい健康な状態をサポートするため、体の内側からのケアとの相性がとてもいいと考えています。

まとめ
脱毛症に対する機能性医学の視点からのアプローチをご紹介しました。ポイントは、髪だけを見るのではなく体全体のバランスを整えることです。腸内環境、栄養状態、ホルモンバランス、ストレス管理、毒素の解毒、感染の治療――これらを一つひとつ丁寧に見直していくことで、髪が育つ土壌が整っていきます。もちろん改善には時間がかかりますし、すべてのケースで劇的に髪が戻るとは限りません。しかし、原因を理解しコントロールすることで「これ以上悪化しないようにできた」「少しずつ産毛が生えてきた」といった前向きな変化が感じられるようになるでしょう。
髪は「健康状態のバロメーター」です。抜け毛に悩むことは辛い体験ですが、それは同時にご自身の体を見つめ直すチャンスでもあります。原因にアプローチするケアは髪だけでなく全身の健康増進にもつながります。今日からできること(例えばバランスの良い食事や十分な睡眠、適度な運動など)を始めてみてください。そして必要な場合は専門の医師の力も借りながら、あきらめずに根本原因に立ち向かっていきましょう。時間はかかっても、きっと髪と健康の両方に嬉しい変化が訪れるはずです。あなたが再び髪に自信を取り戻し、笑顔になれる日を願っています。
当院では抜け毛に対して栄養療法外来にて上記のようなアプローチを行っております。栄養療法は即効薬とは異なり継続が肝要ですが、その分リバウンドしにくく根本的な改善を目指しています。栄養療法外来についてはこちらをご参照ください。
最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
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