表参道・原宿の東京原宿クリニック院長の篠原です。今回は、多くの方が気になっている「高血圧」について、詳しくお話ししたいと思います。
高血圧は、日本人の約4,000万人が抱える国民病とも言える存在です。しかし、多くの方が「高血圧って何?」「どうして危険なの?」といった疑問を持っているのではないでしょうか。
この記事では、高血圧の基本から最新の治療法まで、幅広くお伝えしていきます。健康に関心のある方はもちろん、すでに高血圧と診断されている方、そのご家族の方々にも役立つ情報をお届けしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
Contents
高血圧とは?
高血圧とは、血管の中を流れる血液が血管の壁を強く押す力(血圧)が慢性的に高い状態のことを指します。
血圧は、心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力(収縮期血圧)と、心臓が拡張してリラックスしているときの圧力(拡張期血圧)の2つの数値で表されます。例えば、120/80mmHgと表記される場合、120が収縮期血圧、80が拡張期血圧を示しています。
高血圧は、しばしば「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれます。なぜなら、多くの場合、自覚症状がないまま進行し、気づいたときには重大な合併症を引き起こしているからです。
高血圧は、本態性高血圧と二次性高血圧に大きく分類されます。
- 本態性高血圧:
原因が特定できない高血圧で、全体の約90%を占めます。遺伝的要因や生活習慣が複雑に絡み合って発症すると考えられています。 - 二次性高血圧:
特定の疾患や状態が原因で起こる高血圧です。腎臓病、内分泌疾患、睡眠時無呼吸症候群などが原因となることがあります。
高血圧は、長期間放置すると心臓病や脳卒中などの重大な疾患のリスクを高めます。そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
高血圧の原因
高血圧の原因は複雑で、多くの場合、複数の要因が絡み合っています。主な原因として以下のものが挙げられます。
1. 遺伝的要因
高血圧には遺伝的な傾向があります。両親や兄弟姉妹に高血圧の人がいる場合、自分も高血圧になるリスクが高くなります。ただし、これは絶対ではありません。生活習慣の改善によって、遺伝的なリスクを大幅に軽減できることがわかっています。
2. 食生活の乱れ
特に問題となるのが塩分の過剰摂取です。日本人は世界的に見ても塩分摂取量が多く、これが高血圧の大きな原因となっています。
例えば、ラーメン1杯に含まれる塩分は約6g。これは、1日の推奨摂取量にほぼ匹敵します。毎日の食事で知らず知らずのうちに塩分を摂りすぎていることが多いのです。
3. 運動不足
運動不足は血行不良を招き、血圧を上昇させる要因となります。逆に、適度な運動は血管を拡張し、血流を改善する効果があります。
デスクワークが増えた現代社会では、意識して体を動かす機会を作ることが重要です。
4. 肥満
肥満、特に内臓脂肪型肥満は高血圧と深い関連があります。脂肪細胞から分泌されるホルモンが血圧を上昇させる作用を持つことがわかっています。
5. ストレス
現代社会では避けられないストレスですが、過度のストレスは血圧を上昇させます。ストレスを感じると体内でアドレナリンなどのホルモンが分泌され、これが血圧を上昇させるのです。
6. 飲酒と喫煙
過剰な飲酒は血圧を上昇させ、中性脂肪を増やし動脈硬化を促進します。また、喫煙はニコチンによって血管を収縮させ、血圧を上昇させます。
7. 加齢
年齢を重ねるにつれて、血管の弾力性が失われていきます。これにより、血圧が上昇しやすくなります。
8. その他の要因
睡眠不足や睡眠の質の低下、カフェインの過剰摂取なども血圧を上昇させる要因となることがあります。
重要なのは、これらの要因の多くは私たちでコントロールできるということです。生活習慣を見直し、改善することで、高血圧のリスクを大幅に下げることができるのです。
高血圧の症状
高血圧の厄介なところは、多くの場合、明確な症状がないことです。そのため、「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」とも呼ばれています。
しかし、血圧が非常に高くなった場合や、長期間高血圧が続いた場合には、以下のような症状が現れることがあります。
1. 頭痛
特に後頭部の頭痛は高血圧の症状として知られています。朝起きたときに感じることが多いです。
2. めまい
立ちくらみやふらつきを感じることがあります。
3. 肩こり
血流の悪化によって、首や肩の筋肉が凝り固まることがあります。
4. 動悸や息切れ
心臓に負担がかかることで、動悸を感じたり、少し動いただけで息切れすることがあります。
5. 鼻血
高血圧により血管が弱くなると、鼻血が出やすくなることがあります。
6. 耳鳴り
耳の中で音が鳴っているように感じることがあります。
7. 視力の変化
網膜の血管に影響が出て、視力が低下したり、かすんで見えたりすることがあります。
8. 疲労感
慢性的な疲れを感じることがあります。
ただし、これらの症状は他の病気でも起こり得るものです。また、これらの症状がなくても高血圧である可能性はあります。そのため、定期的に血圧を測定し、健康診断を受けることが重要です。
私が特に注意を呼びかけたいのは、「症状がないから大丈夫」と安心しないことです。高血圧は静かに進行し、気づいたときには重大な合併症を引き起こしている可能性があります。年に1回は必ず健康診断を受け、自分の血圧の状態を把握しておきましょう。
高血圧の診断基準
高血圧の診断は、医療機関での血圧測定結果に基づいて行われます。日本高血圧学会の最新のガイドライン(JSH2019)では、以下のように分類されています:
- 正常血圧: 収縮期血圧が120mmHg未満、かつ拡張期血圧が80mmHg未満
- 正常高値血圧: 収縮期血圧が120-129mmHg、かつ/または拡張期血圧が80-84mmHg
- 高値血圧: 収縮期血圧が130-139mmHg、かつ/または拡張期血圧が85-89mmHg
- I度高血圧: 収縮期血圧が140-159mmHg、かつ/または拡張期血圧が90-99mmHg
- II度高血圧: 収縮期血圧が160-179mmHg、かつ/または拡張期血圧が100-109mmHg
- III度高血圧: 収縮期血圧が180mmHg以上、かつ/または拡張期血圧が110mmHg以上
ここで注意したいのは、1回の測定だけで高血圧と診断されるわけではないということです。通常、複数回の測定結果を見て総合的に判断します。
また、最近では家庭での血圧測定も重視されています。これは「白衣高血圧」(病院でのみ血圧が高くなる現象)や「仮面高血圧」(病院では正常だが、日常生活では高血圧である状態)を見逃さないためです。
家庭血圧の基準値は、医療機関での基準値よりも低く設定されています。
- 家庭血圧での高血圧の基準:135/85mmHg以上
ですので、ご家庭でも定期的に血圧を測定し、記録しておくことをお勧めします。そうすることで、より正確な診断や効果的な治療につながります。
血圧計の選び方や正しい測定方法については、別の機会に詳しくお話ししたいと思います。
高血圧がもたらす合併症
高血圧は、それ自体が直接的に命に関わることは稀です。しかし、長期間放置すると、様々な重大な合併症を引き起こす可能性があります。主な合併症には以下のようなものがあります。
1. 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
高血圧が続くと、脳の血管が傷つき、詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)しやすくなります。脳卒中は、生命に関わる深刻な疾患であり、後遺症として半身麻痺や言語障害を引き起こすことがあります。
2. 心筋梗塞
高血圧により心臓の血管(冠動脈)が傷つき、動脈硬化が進行すると、血管が詰まって心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
3. 心不全
長期間の高血圧は心臓に負担をかけ続けます。その結果、心臓が肥大し、やがて十分に血液を送り出せなくなる心不全の状態に陥ることがあります。
4. 腎臓病
高血圧は腎臓の細かい血管を傷つけ、腎機能を低下させます。逆に、腎臓病が高血圧を引き起こすこともあり、悪循環に陥りやすい関係にあります。
5. 大動脈解離
高血圧により大動脈の壁が弱くなり、内側の層が裂けて血液が流れ込む大動脈解離という危険な状態を引き起こすことがあります。
6. 末梢動脈疾患
手足の動脈が狭くなり、歩行時の痛みや冷感などを引き起こすことがあります。重症化すると壊疽になる可能性もあります。
7. 網膜症
高血圧により目の網膜の血管が傷つき、視力低下や失明につながる可能性があります。
8. 認知症
最近の研究で、高血圧と認知症の間に関連があることがわかってきました。高血圧が続くと、脳の小さな血管が傷つき、認知機能の低下を招く可能性があります。
9. 眼底出血
高血圧により目の奥の血管(網膜血管)が傷つき、出血することがあります。これにより、突然視力が低下したり、視野に影ができたりすることがあります。
これらの合併症は、高血圧が長期間続くことで徐々に進行していきます。つまり、高血圧を放置すればするほど、合併症のリスクが高まるということです。
ここで強調しておきたいのは、これらの合併症は決して「他人事」ではないということです。私たちが日常診療で出会う患者さんの中にも、残念ながらこうした合併症で苦しんでいる方がいらっしゃいます。
しかし、希望もあります。高血圧は、適切な治療と生活習慣の改善によってコントロールすることができます。そして、血圧をコントロールすることで、これらの合併症のリスクを大幅に減らすことができるのです。
次は、その高血圧の治療法について詳しく見ていきましょう。
高血圧の治療法
高血圧の治療は、大きく分けて「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つがあります。どちらも重要で、多くの場合、両方を組み合わせて治療を行います。
1. 生活習慣の改善
生活習慣の改善は、高血圧治療の基本中の基本です。具体的には以下のような対策があります:
a) 減塩
日本高血圧学会のガイドラインでは、1日の食塩摂取量を6g未満に抑えることを推奨しています。
実践のコツ:
- 調味料は控えめに使う
- 麺類の汁は残す
- 加工食品や外食を控える
- だしをきかせて、少ない塩分でも美味しく
b) 適度な運動
有酸素運動を中心に、週に4-5回、1回30分以上の運動を心がけましょう。
おすすめの運動
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
c) 禁煙
喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させます。禁煙は高血圧対策だけでなく、overallな健康のために非常に重要です。
d) 節酒
過度の飲酒は血圧を上昇させます。適度な飲酒量を心がけましょう。
適度な飲酒量の目安
- 日本酒なら1日1合まで
- ビールなら中瓶1本まで
- ワインなら2杯まで
e) 体重管理
肥満、特に内臓脂肪型肥満は高血圧のリスクを高めます。適正体重を維持することが大切です。
BMI(体格指数)の計算方法: 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)
目標とするBMIは25未満です。
f) ストレス管理
ストレスは血圧を上昇させる要因の一つです。適切なストレス管理が重要です。
ストレス解消法の例
- 深呼吸や瞑想
- 趣味の時間を持つ
- 十分な睡眠
- 軽い運動
これらの生活習慣の改善は、すぐに効果が出るものもあれば、時間がかかるものもあります。大切なのは、無理をせず、できることから少しずつ始めることです。
2. 薬物療法
生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合、または初めから血圧が高い場合には、降圧薬による治療が必要になります。
主な降圧薬には以下のようなものがあります:
a) Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)
血管を広げることで血圧を下げます。副作用が比較的少なく、多くの患者さんに使用されています。
b) ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
血管を収縮させるホルモンの働きを抑えることで血圧を下げます。腎臓を保護する効果もあります。
c) ACE阻害薬
ARBと同様に、血管を収縮させるホルモンの産生を抑えます。咳が出るという副作用があることがあります。
d) 利尿薬
尿量を増やすことで血液量を減らし、血圧を下げます。カリウムが不足しやすいので、注意が必要です。
e) β遮断薬
心臓の拍動を穏やかにし、血圧を下げます。喘息の方には使用しにくいという特徴があります。
これらの薬は、患者さんの状態や合併症の有無、年齢などを考慮して選択されます。また、複数の薬を組み合わせて使用することも多いです。
ただし、「血圧が下がったから」という理由で自己判断で薬の服用をやめてしまうと、再び血圧が上昇し、危険な状態に陥る可能性があります。
また、降圧薬には様々な種類があり、個人によって合う合わないがあります。副作用が気になる場合や、効果が感じられない場合は、必ず担当医に相談してください。薬の種類や量を調整することで、より適切な治療が可能になります。
薬物療法は、生活習慣の改善と並行して行うことが基本です。薬に頼りきりにならず、日々の生活習慣の改善にも継続して取り組むことが、高血圧治療の成功の鍵となります。
次は、高血圧の予防法について詳しく見ていきましょう。高血圧は「予防できる病気」でもあるのです。
高血圧の予防法
「治療より予防」という言葉があるように、高血圧も予防が非常に重要です。以下に、効果的な予防法をいくつか紹介します。
1. 定期的な血圧測定
まずは自分の血圧を知ることから始めましょう。家庭用血圧計を使って、毎日同じ時間に血圧を測定し、記録することをおすすめします。
測定のコツ
- 朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、薬を飲む前に測定
- 晩は就寝前に測定
- 5分以上安静にしてから測定
- 同じ姿勢で測定(椅子に座って、リラックスした状態で)
2. バランスの良い食事
減塩だけでなく、全体的に栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
おすすめの食事
- 野菜や果物を積極的に摂取(カリウムが豊富)
- 魚(特に青魚)を週2-3回食べる(オメガ3脂肪酸が豊富)
- 全粒穀物を選ぶ(食物繊維が豊富)
3. 適度な運動習慣
運動は血圧を下げるだけでなく、ストレス解消や体重管理にも効果があります。
運動を習慣化するコツ
- 無理のない範囲から始める
- 楽しみながらできる運動を選ぶ
- 友人や家族と一緒に行う
- 歩数計やスマートウォッチを活用して、日々の活動量を把握する
4. 十分な睡眠
質の良い睡眠は、血圧の安定に重要です。
良質な睡眠のためのヒントは
- 規則正しい就寝・起床時間を守る
- 寝室は暗く、静かで快適な温度に保つ
- 就寝前のカフェインやアルコールを控える
- 就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える
5. ストレスマネジメント
慢性的なストレスは血圧を上昇させる要因となります。
ストレス管理の方法は
- 自分に合ったリラックス法を見つける(瞑想、ヨガ、深呼吸など)
- 趣味の時間を持つ
- 十分な休息をとる
- 必要に応じて専門家のカウンセリングを受ける
6. 禁煙
喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。禁煙は高血圧予防だけでなく、全身の健康にとって非常に重要です。
- 禁煙の日を決めて、周囲に宣言する
- ニコチン代替療法や禁煙補助薬を利用する
- 禁煙外来を利用する
7. 適度な飲酒
過度の飲酒は血圧を上昇させます。お酒を楽しむ場合は、適量を守りましょう。
8. 定期的な健康診断
年に1回は健康診断を受け、血圧だけでなく、全身の健康状態をチェックしましょう。
これらの予防法は、どれも特別なことではありません。日々の生活の中で少しずつ実践していくことが大切です。「継続は力なり」という言葉がありますが、高血圧予防にも当てはまります。
ただし、遺伝的要因や他の疾患の影響で高血圧になるケースもあります。そのため、これらの予防法を実践しても血圧が高い場合は、専門医の診察を受けることをおすすめします。
次は、高血圧に関する最新の研究や治療法の進展について見ていきましょう。医学は日々進歩しており、高血圧治療の分野でも新たな知見が次々と発表されています。
最新の研究と進展
高血圧に関する研究は世界中で活発に行われており、新たな知見や治療法が次々と発表されています。ここでは、最近注目されているいくつかのトピックスをご紹介します。
1. 夜間血圧の重要性
最近の研究では、夜間の血圧が昼間の血圧よりも心血管疾患のリスクを強く予測することが示されています。(PMID: 31006331)
この結果を受けて、24時間血圧測定(ABPM)の重要性が再認識されています。ABPMは、特殊な血圧計を24時間装着し、日中や夜間の血圧変動を詳細に把握する検査方法です。
2. 個別化医療の進展
遺伝子解析技術の進歩により、個人の遺伝情報に基づいた「個別化医療」が進んでいます。
例えば、特定の遺伝子を持つ人は特定の降圧薬に良く反応するといった研究結果が報告されています。将来的には、個人の遺伝情報に基づいて最適な降圧薬を選択できるようになるかもしれません。
3. 新しい降圧薬の開発
従来の降圧薬に加えて、新しいメカニズムの降圧薬の開発も進んでいます。
例えば、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)は、特に難治性高血圧患者に対して有効であることが示されています。
また、糖尿病治療薬として知られるSGLT2阻害薬が、血圧低下作用も持つことがわかり、高血圧を合併する糖尿病患者さんへの使用が注目されています。
4. デジタル技術を活用した高血圧管理
スマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを使用した高血圧管理が注目されています。
これらの技術を使うことで、患者さんは自宅で簡単に血圧をモニタリングし、そのデータを医師と共有することができます。医師は、そのデータを基にリアルタイムで治療方針を調整することができ、より効果的な治療が可能になります。
例えば、日本では高血圧治療用アプリが医療機器として承認され、実際に診療で使用されています。このアプリは、生活習慣の改善をサポートし、服薬管理を助け、さらに血圧データを自動で記録・解析する機能を持っています。
5. 腸内細菌叢と高血圧の関連
最近の研究で、腸内細菌叢(腸内フローラ)と高血圧の間に関連があることがわかってきました。
特定の腸内細菌が、血圧を調整するホルモンの産生に影響を与える可能性が示唆されています。将来的には、プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いた新しい高血圧治療法が開発されるかもしれません。
6. 運動療法の新しい知見
従来、有酸素運動が高血圧に有効とされてきまししたが、最近の研究では、レジスタンス運動(筋力トレーニング)も血圧低下に効果があることがわかってきました。
適切な強度と頻度で行えば、レジスタンス運動は有酸素運動と同程度、あるいはそれ以上の降圧効果が得られる可能性があります。
これらの最新の研究成果は、高血圧治療の可能性を大きく広げるものです。しかし、同時に注意しなければならないのは、これらの新しい知見や治療法のいくつかは、まだ研究段階にあるということです。
実際の診療に取り入れられるまでには、さらなる研究や検証が必要です。そのため、新しい治療法に興味を持たれた場合でも、必ず専門医に相談し、自分に適切な治療法を選択することが重要です。
次は、日本における高血圧の現状について、統計データを交えながら見ていきましょう。
日本における高血圧の統計と傾向
日本は世界有数の長寿国ですが、同時に高血圧大国でもあります。ここでは、日本における高血圧の現状を、いくつかの統計データを用いて説明します。
1. 患者数
厚生労働省の患者調査によると、日本における高血圧の患者数は約4300万人と報告されています。これは成人の約3人に1人が高血圧であることを意味します。
しかし、この数字は医療機関を受診している患者さんの数であり、実際には自覚症状がないまま高血圧状態にある人も多いと考えられます。潜在的な患者さんを含めると、実際の高血圧罹患者はさらに多いと推測されます。
2. 年齢別の傾向
高血圧の有病率は年齢とともに上昇します。
75歳以上では34.97%、20歳以下では0.04%です。また、男性では60.0%、女性では44.6%という結果も出ています。
これらの数字から、年齢を重ねると高血圧の割合が急増することがわかります。
3. 塩分摂取量
日本人の高血圧率が高い一因として、塩分の過剰摂取が挙げられます。厚生労働省の調査によると、日本人の1日当たりの平均食塩摂取量は、
- 成人男性:約11g
- 成人女性:約9g
これは、日本高血圧学会が推奨する1日の食塩摂取量6g未満を大きく上回っています。
4. 医療費
高血圧関連の年間医療費は1兆7,907億円に達しています。生活習慣病の中でも特に大きな割合を占めています。
5. 合併症による死亡数
高血圧自体による直接的な死亡は少ないですが、高血圧が引き起こす合併症による死亡は多数に上ります。例えば,
- 脳卒中による死亡:年間約12万人
- 心疾患による死亡:年間約20万人
これらの死因の多くが高血圧と関連していると考えられています。
6. 治療状況
高血圧と診断された人のうち、治療を受けている人の割合は約50%と言われています。つまり、高血圧と診断されても、半数の人が適切な治療を受けていない可能性があります。
また、治療を受けている人のうち、血圧が適切にコントロールできている人の割合は約30%程度とされており、治療の質の向上も課題となっています。
これらの統計から見えてくるのは、日本における高血圧問題の深刻さです。特に注目すべき点は以下の3つです:
- 高い有病率:成人の3人に1人が高血圧であり、年齢とともにその割合は上昇します。
- 塩分過剰摂取:日本人の食塩摂取量は推奨量を大きく上回っており、これが高血圧の一因となっています。
- 治療の課題:高血圧と診断されても適切な治療を受けていない人が多く、また治療を受けていても十分にコントロールできていない人が多いことが課題です。
これらの統計は、高血圧が個人の問題だけでなく、社会全体で取り組むべき重要な健康課題であることを示しています。
一人ひとりが高血圧に関する正しい知識を持ち、適切な予防と治療に取り組むことが、個人の健康を守るだけでなく、社会全体の医療費削減にもつながります。
次は、これまでの内容を踏まえて、高血圧との上手な付き合い方について、まとめていきたいと思います。
まとめ:高血圧との上手な付き合い方
ここまで、高血圧について様々な角度から見てきました。最後に、高血圧との上手な付き合い方について、私からのアドバイスをまとめたいと思います。
1. 自分の血圧を知る
まずは自分の血圧を正確に把握することが大切です。家庭用血圧計を使って、毎日同じ時間に血圧を測定し、記録しましょう。
2. 生活習慣の改善を心がける
高血圧の予防と治療の基本は生活習慣の改善です。具体的には:
- 減塩:1日6g未満を目指す
- 適度な運動:週に30分以上の有酸素運動を4-5回
- 禁煙
- 節酒:1日の適量を守る
- バランスの良い食事:野菜、果物、魚を積極的に摂取
- 適正体重の維持
これらを一度に全て実践するのは難しいかもしれません。できることから少しずつ始め、徐々に習慣化していくことが大切です。
3. ストレス管理
現代社会では避けられないストレスですが、上手に管理することが重要です。自分に合ったストレス解消法を見つけ、実践しましょう。
4. 定期的な健康診断
年に1回は必ず健康診断を受けましょう。高血圧は自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的なチェックが重要です。
5. 医師の指示に従う
高血圧と診断された場合は、医師の指示に従って適切な治療を受けることが大切です。特に、降圧薬は自己判断で中止せず、指示通りに服用しましょう。
6. 家族や周囲の協力を得る
高血圧の管理は長期戦です。家族や周囲の人たちの理解と協力があれば、継続的な管理がより容易になります。
7. 最新情報にアンテナを張る
高血圧に関する研究は日々進んでいます。信頼できる情報源から最新の情報を得るよう心がけましょう。ただし、新しい治療法などを試す際は、必ず専門医に相談してください。
8. 合併症に注意する
高血圧は様々な合併症を引き起こす可能性があります。頭痛、めまい、視力の変化などの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
9. 焦らず、諦めず
高血圧の管理は一朝一夕にはいきません。良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあるでしょう。大切なのは、焦らず、諦めず、継続して取り組むことです。
10. 前向きに捉える
高血圧の管理は、単に病気を治すだけでなく、より健康的な生活習慣を身につける良い機会でもあります。前向きに捉え、健康的な生活を楽しむ心持ちで取り組みましょう。
高血圧は「沈黙の殺し屋」と呼ばれる怖い病気ですが、適切に管理すれば十分にコントロール可能です。むしろ、高血圧と診断されたことを、自分の健康を見直すきっかけとして前向きに捉えてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が皆さまの健康管理の一助となれば幸いです。
参考文献
- 日本高血圧学会. (2019). 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版.
- 日本循環器学会. (2021). 循環器病ガイドシリーズ. http://www.j-circ.or.jp/guideline/
- World Health Organization. (2021). Hypertension. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hypertension
高血圧診療は、一般内科外来で行っております。