「保湿や塗り薬をしっかり使っているのに、アトピーのかゆみがなかなか治まらない」
「お腹の張り(膨満感)やガスの多さ、便通の乱れといった消化器症状と、皮膚の悪化が連動している気がする」
長引くアトピー性皮膚炎の症状、特に難治性のかゆみにお悩みの方の中には、このような皮膚と消化器の不調を同時に抱えている方が少なくありません。標準的な皮膚科治療で改善が頭打ちになっている場合、その背景には「腸-皮膚軸」を介した腸内環境の問題が隠れている可能性があります。
本記事では、その可能性の一つとして近年注目されている「腸カンジダ」、特に小腸での真菌の異常増殖であるSIFO(Small Intestinal Fungal Overgrowth)とアトピー性皮膚炎の関連について、最新のエビデンスを交えなが解説します。
この記事を読めば、以下の点がわかります。
- 腸カンジダがアトピーを悪化させる可能性のあるメカニズム
- どのような場合に腸カンジダの関与を疑うべきか(セルフチェック)
- 便検査などの各種検査の適切な使い方とその限界
- 食事療法やプロバイオティクス、抗真菌薬など、介入法の位置づけと優先順位
- 安全な取り組み方と、知っておくべき注意点
因果関係を単純化せず、あくまで「標準治療を補完する補助的アプローチ」という視点から、ご自身の状態を客観的に見つめ、次のステップを考えるための一助となれば幸いです。
アトピーを栄養療法で改善するご希望の方は、栄養外来をご検討ください。

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Contents
アトピーと腸カンジダ—何が問題?
まず結論:関連は示唆、因果は未確定
最初に結論からお伝えします。腸内のカンジダ菌がアトピー性皮膚炎の炎症を悪化させる可能性は、一部の研究で示唆されています。しかし、現時点ではエビデンスの確実性は高いとは言えず、「腸カンジダがアトピーの原因である」と断定できるほどの因果関係は確立されていません。
あくまで、複数の悪化因子が複雑に絡み合うアトピーの病態において、「腸内真菌叢(マイコバイオーム)の乱れ」が一つの誘因・増悪因子として関与しうる、という段階です。
標準治療との位置づけ:補助的アプローチとして
したがって、腸カンジダやSIFOに対する介入は、アトピー性皮膚炎の第一選択治療ではありません。SIFOにつきましては、こちらの記事をご参照下さい。アトピー治療の基本は、あくまで①皮膚のバリア機能の回復(保湿)、②炎症の抑制(抗炎症外用薬)、③悪化因子の除去(アレルゲン、黄色ブドウ球菌対策など)です。これらアトピー性皮膚炎の基礎と治療選択を徹底することが大前提となります。詳しくはこちらのアトピーの記事をご参照下さい。
腸内環境へのアプローチは、これらの標準治療を十分に行ってもコントロールが難しい場合に、補助的に検討される選択肢と位置づけられます。決して標準治療に取って代わるものではないことをご理解ください。
該当しやすい方:難治性+消化器症状を伴うケース
では、どのような方が腸カンジダの関与を考慮する対象となりやすいのでしょうか。臨床的には、以下のような特徴を持つ場合に、腸内環境の評価を検討することがあります。
- 標準的な皮膚科治療に抵抗性の、難治性のアトピー性皮膚炎
- 皮膚症状の悪化と連動して、腹部膨満感、ガスの増加、下痢・便秘などの消化器症状がみられる
- 抗菌薬(抗生物質)の長期服用後に、皮膚症状と消化器症状の両方が悪化した経験がある
- 頭頸部など、皮脂の多い部位の湿疹が特に治りにくい

これらの特徴が当てはまる場合、皮膚だけの問題ではなく、腸内環境、特に真菌叢のバランスが崩れている可能性を視野に入れる価値があるかもしれません。
動画で概要を掴む
動画で今回の概要を掴みたい方はこちらをご参照ください。
腸-皮膚軸とマイコバイオームの基礎
なぜ、遠く離れた腸と皮膚が関係するのでしょうか。その鍵を握るのが「腸-皮膚軸」と「マイコバイオーム」という概念です。
腸-皮膚軸とは:バリアと免疫の相互連関
「腸-皮膚軸(Gut-Skin Axis)」とは、腸内環境が全身の免疫系や代謝を介して、皮膚の健康状態に影響を及ぼすという相互関係を示す言葉です。
健康な腸では、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(SCFA)などが腸の粘膜バリアを強化し、有害物質が体内へ侵入するのを防いでいます。しかし、何らかの原因で腸内環境が乱れる(ディスバイオシス)と、このバリア機能が低下し、いわゆる「リーキーガット(腸管壁透過性亢進)」状態になることがあります。リーキーガットにつきましては、以下の記事もご参照下さい。
その結果、本来であれば腸管内でブロックされるはずの未消化の食物抗原や微生物由来の毒素(エンドトキシンなど)が血中に漏れ出し、全身を巡って皮膚に到達します。これが皮膚で過剰な免疫反応を引き起こし、アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみを悪化させる一因と考えられています。
真菌叢(マイコバイオーム)の特徴と変化
私たちの腸内には、細菌(バクテリオーム)だけでなく、酵母やカビなどの真菌も「真菌叢(マイコバイオーム)」として共生しています。カンジダ属は、その代表的な常在真菌です。
健康な状態では、カンジダは他の腸内細菌とバランスを取りながら、少数派としておとなしく存在しています。しかし、抗菌薬の使用、糖質の過剰摂取、ストレス、免疫力の低下などによって細菌叢のバランスが崩れると、カンジダが異常に増殖することがあります。腸カンジダの過剰増殖につきましては、以下の記事をご参照下さい。
アトピー性皮膚炎の患者さんでは、皮膚と消化管の両方で、この真菌叢に健常者とは異なる変化がみられることが報告されています。重症のAD患者さんの皮膚では、通常優勢なマラセチア属が減少し、代わりにカンジダ属などが多様に検出される傾向があります(Schmid B, 2022)。
同様に、将来アトピーを発症するリスクの高い乳児では、生後早期から腸内のカンジダ属の定着率が高いことも示唆されています(Fujimura KE, 2016)。
Th2偏位・肥満細胞・ヒスタミンの関与
腸内で増殖したカンジダは、どのようにして皮膚の炎症を悪化させるのでしょうか。考えられるメカニズムは複数あります。
- 免疫バランスの攪乱(Th2偏位):アトピー性皮膚炎は、免疫細胞の中でもTh2細胞が優位になり、炎症を引き起こすサイトカイン(IL-4, IL-13など)が過剰に作られる状態が特徴です。腸内カンジダの増殖や、それによる腸内環境の乱れは、全身の免疫バランスをこのTh2優位な状態に傾けてしまう可能性が示唆されています(Fujimura KE, 2016)。
- 腸管バリアの破壊と肥満細胞の活性化:マウスを用いた動物実験では、腸管内にカンジダを定着させると、腸粘膜に存在する肥満細胞(マスト細胞)が活性化し、ヒスタミンなどを放出することが示されています。これにより腸のバリア機能がさらに低下し(リーキーガットの助長)、食物抗原が体内に入りやすくなることで、食物アレルギーの感作が促進される可能性が示唆されました(Yamaguchi N, 2006)。
- 内因性ヒスタミンの増加:活性化した肥満細胞から放出されるヒスタミンは、アトピーのかゆみの直接的な原因物質です。腸管で放出されたヒスタミンが全身のかゆみの閾値を下げ、皮膚症状を悪化させている可能性も考えられます。ヒスタミン不耐症については以下の記事もご参照下さい。
このように、腸内カンジダの異常増殖は、免疫の偏りや腸管バリアの破綻、ヒスタミンの過剰放出などを介して、アトピー性皮膚炎の複雑な病態形成に関与している可能性が考えられます。
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エビデンス概観:レビュー・ヒト研究・動物モデル
では、これらの仮説を裏付ける科学的根拠(エビデンス)は、どの程度の強さなのでしょうか。最新の研究報告を概観してみましょう。
系統的レビュー:抗真菌療法の効果は限定的
治療法の有効性を評価する上で最も信頼性が高いとされるのが、複数の臨床試験の結果を統合・解析した「システマティックレビュー(SR)」です。
2024年に発表されたADに対する抗真菌療法の有効性を評価したSRでは、7件のランダム化比較試験(RCT)を解析した結果、「外用および経口抗真菌療法の有効性は総じて限定的である」と結論付けられています(Andrade LF, 2024)。
つまり、抗真菌薬を使うことでADの皮疹やかゆみが明確に改善するという一貫した結果は得られず、標準治療として推奨できるだけの根拠は乏しい、ということです。特に経口抗真菌薬は肝機能障害などの副作用リスクもあり、利益と不利益のバランスを慎重に考慮する必要性が指摘されています。
出生コホート/症例対照:カンジダ優位とアレルギーリスク
一方で、腸内カンジダとアトピーの「関連」を示唆する研究は複数存在します。
代表的なものに、米国の乳児298名を追跡した出生コホート研究があります。この研究では、生後1ヶ月時点の腸内フローラを解析したところ、カンジダ属などの真菌が相対的に多いタイプの腸内環境を持つ乳児は、2歳までにアレルギーを発症するリスクが有意に高いことが示されました(Fujimura KE, 2016)。
この研究は因果関係を証明するものではありませんが、人生の早期における腸内真菌叢のパターンが、将来のアレルギー体質の形成に影響を与えている可能性を示唆する重要な知見です。

また、AD患者さんの便からは健常者よりも高頻度にカンジダが検出される、といった症例対照研究も報告されていますが、研究デザインによるバイアス(偏り)の可能性もあり、解釈には注意が必要です。
動物モデル:カンジダが腸透過性と感作に与える影響
メカニズムを探る基礎研究として、前述のマウスモデルが挙げられます。この研究では、カンジダの腸管内定着が、①腸管の肥満細胞を活性化させ、②腸管の透過性を亢進させ(リーキーガット)、③食物抗原に対するアレルギー感作を促進するという一連の流れが示されました(Yamaguchi N, 2006)。

これは、腸内カンジダが単にそこに「いる」だけでなく、積極的にアレルギー反応の土台作りに加担しうることを示唆しており、腸-皮膚軸のメカニズム仮説を支持するものです。
【エビデンスのまとめ】
- 治療効果:抗真菌薬がADに効くという質の高いエビデンスは限定的。
- 関連性:生後早期の腸内カンジダと将来のアレルギー発症との関連は示唆されている。
- メカニズム:動物実験レベルでは、カンジダがアレルギー感作を促進する可能性が示されている。
どんな時にSIFOを疑う?セルフチェック
ここまでの情報をもとに、ご自身の症状が腸カンジダ/SIFOの関与を疑うパターンに当てはまるか、セルフチェックをしてみましょう。以下の項目に3つ以上当てはまる場合は、専門医への相談を検討する価値があるかもしれません。
- □ 腹部の張り(膨満感)やガスが日常的に気になる
- □ 下痢、便秘、あるいはその両方を繰り返す
- □ 抗菌薬(抗生物質)を飲んだ後に、お腹の不調と皮膚の悪化が同時に起こったことがある
- □ 甘いもの(お菓子、ジュース、精製された炭水化物)を多く摂ると、かゆみやお腹の張りが強くなる気がする
- □ 発酵食品(納豆、ヨーグルト、味噌など)やアルコールを摂取すると、皮膚症状が悪化することがある
- □ 食後、すぐに眠くなったり、頭がぼーっとしたりすることが多い(ブレインフォグ)
- □ 胃薬(特に胃酸を抑える薬)を長期間服用している
- □ 頭や顔、首周りなど、上半身の湿疹が特に治りにくい
このチェックリストはあくまで目安です。診断を確定するものではありませんので、ご注意ください。
診断オプションと解釈のコツ
腸カンジダ/SIFOの関与が疑われた場合、どのような検査が行われるのでしょうか。ここでは代表的な検査法とその解釈のポイント、限界について解説します。
便中真菌検査(メタゲノム/培養/PCR):活用と限界
便中の微生物叢を網羅的に調べる検査です。特に次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析では、便に含まれる細菌や真菌の種類と比率を詳細に知ることができます。
活用法:カンジダ属が異常に高い割合を占めていないか、他の有用菌とのバランスはどうか、といった腸内環境全体の傾向を把握するのに役立ちます。治療介入前後の変化をみることで、アプローチが適切だったかを評価する指標にもなります。
限界と注意点:便は主に大腸の内容物を反映するため、SIFO(「小腸」真菌異常増殖症)の診断を直接確定するものではありません。
明確な基準値がない:カンジダがどのくらい検出されたら「異常」とするか、明確に定められた基準値はありません。健常者でも検出されることがあるため、「検出=即治療対象」とはなりません。症状との関連性を総合的に判断する必要があります。
偽陽性の可能性:食事から一時的に摂取した酵母などを検出してしまう可能性もあります。
有機酸検査:補助的指標の位置づけ
尿中に排泄される様々な有機酸を測定する検査です。カンジダは代謝の過程で特有の有機酸(D-アラビニトールなど)を産生するため、尿中のこれらの物質の濃度を測ることで、間接的に体内の真菌負荷を評価しようというアプローチです。有機酸検査についての詳しい情報は以下をご参照下さい。
活用法:治療介入の前後で数値を比較し、マーカーが低下していれば、体内のカンジダ負荷が減少した可能性を示唆する補助的な情報として利用されることがあります。
限界と注意点:D-アラビニトール値は、食事内容や腎機能の影響も受けるため、この検査だけでカンジダの過剰増殖を断定することはできません。またあくまで研究レベルで用いられる指標であり、臨床的な診断基準としては確立されていません。
SIBO/SIFOの評価フロー:呼気試験→内視鏡の考え方
SIFOは、しばしばSIBO(小腸「細菌」異常増殖症)と症状が似ており、合併することもあります。そのため、臨床的な評価は段階的に行われます(SIBOについてはこちらをご参照下さい)。
- SIBOの評価:まずはSIBOのスクリーニングとして一般的には呼気試験を行います。これは糖(ラクツロースなど)を飲んだ後の呼気中の水素・メタンガス濃度を測定する非侵襲的な検査です。(当院ではこの検査を省くことが多いです)。
- SIBO治療の試行:SIBOが陽性であれば、まずSIBOの治療(抗菌薬など)を優先します。
- SIFOの考慮:SIBOの治療を行っても症状が改善しない場合や、呼気試験が陰性であるにもかかわらず強い消化器症状が続く場合に、SIFOの可能性を考えます。
小腸液培養の判断基準:≥10³ CFU/mLを目安に総合判断
SIFOの確定診断(ゴールドスタンダード)は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて十二指腸の液体を直接採取し、それを培養して真菌の量を測定する方法です。
- 診断基準:一般的に、小腸液1mLあたり10³ CFU以上の真菌が検出された場合にSIFOと診断されます。
- 限界:侵襲的な検査であり、時間とコストがかかるため、誰にでも行われる検査ではありません。研究機関や一部の専門医療機関でのみ実施可能であり、難治性の消化不良症状の原因精査など、適応は限定されます。
介入の全体像:優先順位づけ
腸カンジダ/SIFOの関与が強く示唆された場合でも、いきなり強力な薬を使うわけではありません。介入は、リスクの低いものから段階的に、そして治療の順番を意識して行います。
まずは皮膚バリア/常在菌対策(保湿・抗炎症・黄色ブ菌対策)
最優先事項は、アトピー性皮膚炎そのものに対する標準治療の徹底です。
- 保湿:皮膚のバリア機能を回復させ、外部からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぎます。
- 抗炎症療法:ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などで、起きてしまった炎症を適切に鎮めます。
- 悪化因子対策:皮膚表面で悪さをする黄色ブドウ球菌への対策(抗菌薬含有軟膏の使用やスキンケアの見直し)や、汗、衣類の摩擦、アレルゲンなどの回避を継続します。
これらの基本が疎かになっていては、いくら腸内環境にアプローチしても十分な効果は期待できません。当院へご来院いただいている患者様はほとんどここを行ってきている方が多いです。
生活・食事:抗カンジダ/低ヒスタミンは“試験的に短期で”
次に検討するのが食事や生活習慣の見直しです。
- 抗カンジダ食:カンジダの栄養源となる砂糖や精製された炭水化物を控える食事法です。過剰な糖質摂取が腸内環境を乱すことは知られており、理にかなった面もあります。
- 低ヒスタミン食:熟成チーズ、加工肉、一部の発酵食品、アルコールなど、ヒスタミンを多く含む、あるいは体内でヒスタミン放出を促す食品を一時的に避ける食事法です。かゆみの閾値を下げる要因を減らす狙いがあります。

【食事療法の注意点】
これらの食事療法は、あくまで“試験的に、期間を区切って”行うことが重要です。過度な制限は栄養不足やQOL(生活の質)の低下を招くリスクがあります。2~4週間程度試してみて、症状(皮膚・消化器)に明らかな改善が見られない場合は、漫然と続けずに元の食事に戻すなど、柔軟な対応が必要です。必ず専門家の指導のもとで行いましょう。
併存症対策:SIBO・IBS・便秘/胆汁うっ滞・膵外分泌不全
腸内環境は、カンジダ単体の問題ではなく、消化管全体の機能と密接に関連しています。
- SIBO(小腸細菌異常増殖症):合併している場合は、まずSIBOの治療も行います。
- 便秘:便の停滞は悪玉菌や真菌の温床となります。食物繊維や水分を適切に摂取し、規則正しい排便習慣を心がけることが、腸内環境の浄化につながります。
- 胃酸・胆汁・膵液の分泌不全:これらは食物の消化吸収と、腸内の殺菌に重要な役割を果たします。分泌が低下している場合は、その原因を探り、必要に応じて消化酵素の補充などを検討します。
個々の菌を叩くことだけを考えるのではなく、腸内生態系全体が健全に機能するような「土台作り」が大切です。
個別介入:プロバイオティクス・抗真菌薬・サプリ
土台作りと並行して、より直接的な介入を検討することもあります。ただし、これらは医師の管理下で行うべきアプローチです。
S. boulardii等の使い方と禁忌・中止基準
プロバイオティクスは、腸内の有益な微生物を補うことで、腸内環境のバランスを整えるアプローチです。ADに対しては、乳酸菌やビフィズス菌の効果が主に小児で報告されていますが、近年、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)というプロバイオティクス酵母が注目されています。
- 期待される作用:S. boulardiiは腸内でカンジダと拮抗してその増殖を抑える作用や、腸管の免疫を調整する作用が示唆されています。小児AD患者において、抗ヒスタミン薬にS. bouloutiiを併用した群で、症状の改善率が有意に高かったとするランダム化比較試験(RCT)も報告されています(Zhu M, 2016)。
抗真菌薬(ナイスタチン/アゾール系):適応・用量の目安・肝機能モニタリング
便検査などでカンジダの明らかな異常増殖が示唆され、かつ難治性の皮膚・消化器症状を伴う場合に、限定的に抗真菌薬の使用が検討されることがあります。
薬剤の種類:
ナイスタチン:消化管からほとんど吸収されないため、腸管内のカンジダに限定して作用します。全身性の副作用が少ないのが特徴です。
アゾール系(フルコナゾールなど):吸収されて全身に作用します。効果は強いですが、肝機能障害や薬物相互作用のリスクに注意が必要です。
適応と位置づけ:前述の通り、ADそのものに対する有効性のエビデンスは限定的です。あくまで、カンジダの異常増殖が症状の明確な悪化因子となっていると判断される場合に、標準治療の補助として慎重に用いられます。漫然と長期投与すべきではありません。
安全性:アゾール系の薬剤を使用する際は、定期的な肝機能のモニタリングが望ましいです。
ハーブ/サプリ:根拠の強さとリスク、使用するならの注意点
オレガノオイル、カプリル酸、ニンニク抽出物など、抗カンジダ作用を謳うハーブやサプリメントも存在します。しかし、植物由来=安全とは限らず、中には肝臓に負担をかけるものや、アレルギー反応を引き起こすものもあります。もし使用する場合は、必ずかかりつけ医に相談の上、自己責任の範囲で行うようにしてください。
まとめと受診の目安・FAQへの導線
重要ポイント要約
- 腸カンジダとアトピーの因果関係は未確定。腸内環境は、あくまで数ある悪化因子の一つと捉えるべきです。
- 治療の基本は皮膚科の標準治療(保湿・抗炎症)であり、腸へのアプローチは補助的な位置づけです。
- 難治性のアトピーと消化器症状が併存する場合に、腸内環境の評価を検討する価値があります。
- 介入は食事・生活習慣の見直しから始め、プロバイオティクスや抗真菌薬の使用の判断を行います。
- 「〇〇すれば治る」という単純な解決策はありません。ご自身の状態を多角的に評価し、一つずつ丁寧に対処していくことが改善への近道です。
セルフチェックで該当したら相談を
本記事で解説してきた通り、アトピー性皮膚炎と腸カンジダの関連を示すエビデンスは、まだ発展途上であり、確立されたものではありません。そのため、腸カンジダへの介入が全てのアトピー患者さんに有効なわけではないことを、まずご理解いただく必要があります。
しかし、標準治療を尽くしても改善が難しい患者さんにおいて、腸内カンジダが無視できない悪化因子となっており、また腸カンジダを除菌することでアトピーが改善するケースを、私たちは臨床現場で経験します。
セルフチェックで多くの項目が当てはまり、現在の治療に難渋している方は、一度ご相談ください。当院では、エビデンスの限界を正直にお伝えした上で、それでもなお改善の可能性を探りたいという方のために、腸内環境を評価する検査(便検査など)をご提供しています。その結果と症状を総合的に判断し、必要性が高いと判断されれば、リスクとベネフィットを十分に説明した上で、腸カンジダに対する段階的な介入(食事療法、プロバイオティクス、抗真菌薬など)を、「標準治療を補完する個別のアプローチ」としてご提案することが可能です。
諦めかけていたその症状の裏に、まだできることがあるかもしれません。皮膚科的な視点だけでなく、腸-皮膚軸の観点からも症状を多角的に評価し、あなたに合った次の一手を一緒に考えていきましょう。
アトピーを栄養療法で改善するご希望の方は、栄養外来をご検討ください。

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最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
オンライン診療対象地域
青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
北海道と沖縄県はバイオロジカル検査の送付ができません。バイオロジカル検査の送付が必要なければオンラインでの診察はできます。
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参考文献
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