分子栄養学

【専門医が徹底解説】遅延型フードアレルギー検査は“意味ない”のか?リーキーガットを評価し不調の根本原因を探る最新アプローチ

表参道・原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。

原因不明の倦怠感、繰り返すニキビや肌荒れ、すっきりしないお腹の調子、集中力を妨げる頭の霧(ブレインフォグ)…。

近年、このような慢性的な症状の原因の一つとして、「遅延型フードアレルギー」という言葉が注目されています。これは、原因となる食物を摂取してから数時間、あるいは数日経ってから症状が現れるため、原因と結果が結びつきにくく、見過ごされがちな体の反応です。

しかし、いざ「遅延型フードアレルギー検査」と検索すると、「意味ない」「医学的根拠がない」「学会は非推奨」といった否定的な言葉も目に飛び込んでくるはずです。これは一体どういうことなのでしょうか?なぜ、一部の医療機関では長引く不調の解決策として積極的に行われ、一方で主要な学会からは否定的な見解が示されているのでしょうか。

この情報の混乱は、藁にもすがる思いで解決策を探している方々を、さらに困惑させ、深く悩ませる原因となっています。

この記事では、この遅延型フードアレルギー検査をめぐる賛否両論の真相を、科学的根拠に基づいて説明していきます。

そして、その議論の先にある、当院が最も重視するアプローチ——『アレルギーの原因食品を犯人捜しするためではなく、腸の健康状態、特に“リーキーガット(腸漏れ症候群)”を評価するための極めて重要な指標』としての遅延型フードアレルギー検査の最新の活用法を解説します。

この記事を読み終える頃には、あなたは以下のことを理解できるはずです。

  • なぜ遅延型フードアレルギー検査が「意味ない」と言われるのか、その本当の理由
  • 「リーキーガット症候群」という、あらゆる不調の根源となる病態の正体
  • 遅延型フードアレルギー検査が、リーキーガットを評価する強力なツールとなる科学的根拠
  • あなたの不調の根本原因に迫るための、当院の先進的な検査と治療アプローチ

長年の不調のトンネルから抜け出すための、新たな光がここにあります。ぜひ最後までお付き合いください。

もし、長年の体調不良に悩まれていて、検査や治療をされたいという方は当院栄養外来をご検討ください。

「遅延型フードアレルギー」とは? – その正体と即時型との決定的違い

まず、すべての基本となる「遅延型フードアレルギー」と、一般的に知られる「即時型アレルギー」の違いを明確に理解することから始めましょう。この二つは、同じ「アレルギー」という言葉が使われていますが、そのメカニズムから症状、対処法に至るまで、全く異なるものです。

即時型アレルギー(IgE抗体介在性)

一般的に「食物アレルギー」として認知されているのが、この「即時型」です。

  • 関与する抗体: IgE(免疫グロブリンE)
  • 発症時間: 食物摂取後、数分から長くとも2時間以内という、非常に短い時間で反応が起こります。
  • メカニズム: 体の免疫システムが特定の食物(アレルゲン)を「敵」と誤認し、IgE抗体を作り出します。再びその食物が体内に入ると、IgE抗体がマスト細胞という免疫細胞に結合し、ヒスタミンなどの化学伝達物質を大量に放出させることで、アレルギー反応が引き起こされます。
  • 主な症状: 蕁麻疹(じんましん)、皮膚のかゆみや赤み、口や喉の腫れ、咳、喘鳴(ぜんめい)、腹痛、嘔吐、下痢など、典型的で分かりやすい急性症状が特徴です。重篤な場合には、血圧低下や意識障害を伴うアナフィラキシーショックを引き起こし、命に関わることもあります。
  • 医学的コンセンサス: この即時型アレルギーは、その病態や診断法が確立されており、特異的IgE抗体血液検査や皮膚プリックテストなどが標準的な診断方法として広く認められ、健康保険も適用されます。
即時型食物アレルギーサイクル

遅延型フードアレルギー(IgG抗体関連)

一方、遅延型フードアレルギーは、より複雑で捉えにくい反応です。厳密には「アレルギー」ではなく、「食物過敏症」や「食物不耐症」と表現されることもあります(Diao H. ほか, Frontiers in Immunology, 2024年.

  • 関与する抗体: IgG(免疫グロブリンG) が主に関与していると考えられています。
  • 発症時間: 症状は、原因となる食物を摂取してから数時間後から数日後、場合によっては数週間後に現れることもあります。この時間差が、どの食物が不調の原因であるかを自覚することを極めて困難にしています。
  • メカニズム: この反応には、IgGという別の種類の抗体が関与していると考えられています。食物の抗原がIgG抗体と結合して「免疫複合体」を形成し、これが体内の様々な組織に沈着して、慢性的な炎症を引き起こす一因となるとされています。IgE抗体のようにマスト細胞を直接活性化するわけではないため、その反応は穏やかで、かつ遅れて現れます。
  • 主な症状: 症状は非常に多岐にわたり、かつ慢性的で非特異的です。
    • 消化器症状: 過敏性腸症候群(IBS)のような腹痛、便秘、下痢、腹部膨満感、ガス
    • 皮膚症状: 治りにくいニキビ、原因不明の湿疹、アトピー性皮膚炎の悪化、乾癬、肌荒れ
    • 精神神経症状: 原因不明の頭痛、片頭痛、ブレインフォグ(頭に霧がかかったような感覚)、集中力低下、慢性疲労、めまい、気分の落ち込み、不安感
    • その他: 関節痛、筋肉痛、むくみ、体重増加など
  • 医学的コンセンサス: IgG抗体の役割については議論があり、標準的な診断法として確立されておらず、検査は自由診療となります。
遅延型フードアレルギーの特徴
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即時型と遅延型の比較表

項目即時型アレルギー(IgE)遅延型フードアレルギー(IgG)
関与する抗体IgEIgG
症状発現時間数分~2時間数時間~数日
主な症状蕁麻疹、喘鳴、アナフィラキシー等、急性的で重篤な症状慢性疲労、頭痛、消化器症状、肌荒れ等、慢性的で多様な症状
原因の特定比較的容易困難
検査法特異的IgE抗体検査、皮膚プリックテスト特異的IgG抗体検査
保険適用ありなし(自由診療)

このように、遅延型フードアレルギーは即時型アレルギーとは全く異なる病態です。この根本的な違いを認識しないままIgG検査を解釈しようとすることが、次章で解説する論争の大きな原因となっています。

動画

動画で概要を掴みたい方は以下より御覧ください。

なぜ「意味ない」「非推奨」と言われるのか?- 主要学会の見解と論争の背景

遅延型フードアレルギー検査(IgG検査)について調べると、必ずと言っていいほど「意味がない」「科学的根拠がない」といった否定的な意見に突き当たります。実際に、日本アレルギー学会や日本小児アレルギー学会をはじめ、米国や欧州の主要なアレルギー関連学会は、IgG検査を食物アレルギーの診断に用いることを推奨していませんStapel S.O. ほか, Allergy, 2008年.)。

この章では、なぜ専門学会がこのような見解を示しているのか、その理由を客観的に詳しく解説します。この背景を正しく理解することは、当院が提唱する新しい検査の活用法を理解する上で不可欠です。

主要学会がIgG検査を推奨しない根拠

学会がIgG検査の診断的価値を否定する主な理由は、以下の3点に集約されます。

1. IgG抗体は「免疫寛容」のマーカーである可能性

最も重要な論点が、IgG抗体の役割そのものに関する解釈の違いです。アレルギー学会の見解では、食物に対するIgG抗体(特にサブクラスであるIgG4)の存在は、アレルギー反応の証拠ではなく、むしろ体がその食物に慣れ、安全なものとして受け入れている「免疫寛容」という正常な生理的反応の表れであると考えられています。

食物は体にとっては異物ですが、栄養として摂取する必要があります。そのため、免疫系は口から入ってきた食物に対しては、過剰に攻撃しないようにする「免疫寛容」という仕組みを発達させてきました。このプロセスにおいてIgG抗体が産生されるため、健康な人であっても、日常的に摂取している食物に対するIgG抗体は血中に存在するのです。

2. IgG抗体価は単に「食物の摂取量」を反映しているだけ

上記の理由と関連して、IgG抗体の量は、その食物の摂取量や摂取頻度に比例する傾向があることが指摘されています。つまり、日常的にたくさん食べている好物や主食(例えば、米、小麦、卵、乳製品など)ほど、高いIgG抗体価を示しやすいのです。

もしこの結果を「アレルギーの原因」と短絡的に解釈してしまうと、健康上全く問題なく食べている食品まで除去しなければならない、という誤った結論に至る危険性があります。

3. 不必要な食事制限による栄養障害のリスク

学会が最も懸念しているのが、この検査結果の誤った解釈に基づく不必要な食事制限です。特に、成長期にある小児に対して、IgG検査で陽性に出たという理由だけで多くの食品を除去すると、深刻な栄養障害や発育不全を引き起こすリスクがあります。

また、成人であっても、自己判断で厳格な除去食を行うことは、栄養バランスの偏りを招き、かえって新たな健康問題を生じさせる可能性があります。監視の行き届かない郵送検査キットの存在も、この懸念に拍車をかけています。

IgG検査のプロコン

視点の違いが論争を生む

ここまで見てきたように、主要学会がIgG検査を推奨しないのは、「即時型アレルギーと同じように、生涯にわたって除去すべき原因食物を特定する」という目的でこの検査を用いることに対してです。

つまり、学会が指摘しているのは、「IgG検査の結果だけを見て、安易に原因食物と決めつけ、不必要な除去食を行うべきではない」という点です。この点において、当院も全く同意見です。 IgG検査の結果を、従来のIgEアレルギー検査と同じ物差しで測ることは、明らかに間違いです。

しかし、この検査の真の価値は、全く別の視点から見ることで明らかになります。次の章では、この「視点の転換」、すなわち「パラダイムシフト」について詳しく解説します。

「アレルギー診断」から「腸管バリア機能評価」へのパラダイムシフト

前章で述べた通り、遅延型フードアレルギー検査(IgG検査)を従来の「アレルギー診断」の枠組みで捉えようとすると、多くの矛盾が生じます。しかし、視点を180度転換し、この検査を「腸の健康状態、特に腸管バリア機能の評価指標」として捉え直すことで、その臨床的価値は飛躍的に高まります。

すべての始まり:「リーキーガット症候群(LGS)」とは?

このパラダイムシフトを理解する鍵は、「リーキーガット症候群(LGS: Leaky Gut Syndrome)」、日本語では「腸管壁浸漏症候群」と呼ばれる病態にあります。リーキーガットにつきましては、こちらもご参照ください。

私たちの腸には、二つの相反する重要な役割があります。

  1. 消化された栄養素を効率よく吸収すること。
  2. 体にとって有害な細菌、ウイルス、毒素、そして未消化の食物などが体内に侵入するのを防ぐ「バリア」としての役割。

このバリア機能の最前線を担っているのが、腸の粘膜を覆う一層の上皮細胞です。健康な状態では、これらの細胞同士は「タイトジャンクション」と呼ばれるタンパク質複合体によって、レンガ塀のセメントのように固く結合されています。これにより、分子レベルで選択的に栄養素だけを通し、有害物質の侵入をブロックしています。

しかし、不適切な食生活(グルテン、カゼイン、加工食品、砂糖、アルコールなど)、慢性的なストレス、抗生物質の乱用、特定の細菌・真菌(カンジダなど)の感染、栄養不足など、様々な要因によってこのタイトジャンクションが緩んでしまうことがあります。

すると、細胞と細胞の間に隙間ができ、本来であれば体内に入るはずのない、十分に消化されていない大きな分子の食物粒子や、腸内細菌の毒素(LPSなど)が、血液中に「漏れ出してしまう」のです。この状態が、リーキーガット症候群です(Fasano A., Clinical Gastroenterology and Hepatology, 2012年.)。

[リーキーガット症候群のメカニズム図の画像]

リーキーガットがIgG抗体を産生させるメカニズム

ここで、IgG検査とリーキーガットが直接的に結びつきます。

本来、食物のタンパク質はアミノ酸レベルまで細かく分解されてから吸収されるため、免疫系が過剰に反応することはありません。しかし、リーキーガットの状態では、未消化のタンパク質粒子がそのままの形で血中に漏れ出てしまいます

血中に突如現れたこれらの未消化タンパク質を、体の免疫システムは「異物」「侵入者」と認識します。そして、これらの侵入者を排除するために、防御反応としてIgG抗体を大量に産生し始めるのです。

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パラダイムシフト:IgG検査結果の新しい解釈

このメカニズムを理解すると、IgG検査の結果が全く違って見えてきます。

  • 旧パラダイム :
    「卵に高いIgG反応が出た」→「私は卵アレルギーだ」
  • 新パラダイム(当院の解釈):
    「卵、牛乳、小麦、大豆など、複数の食品に高いIgG反応が出た」→「私の腸管バリアは傷ついており(リーキーガット)、これらの食品が未消化のまま血中に漏れ出し、免疫系に過剰な刺激を与えている証拠だ」

つまり、多数の食品に対する高いIgG反応は、何十種類もの食物アレルギーがあることを意味するのではありません。それは、腸管バリア機能が破綻していることを示す、極めて強力な間接的指標なのです。 反応している食品が多いほど、腸の「漏れ」の程度が深刻である可能性が示唆されます。

この新しい視点に立つと、IgG検査の目的と、その後のアプローチも大きく変わります。

  • 目的: 生涯避けるべきアレルゲンを見つけることではなく、「現在、腸に炎症を引き起こし、免疫系に負担をかけている食品」を特定し、リーキーガットの重症度を評価すること。
  • アプローチ: 陽性食品を生涯除去するのではなく、腸の炎症を鎮め、傷ついた腸壁が修復する時間を与えるために、「一時的に」それらの食品の摂取を控えるという治療的食事療法。そして、陽性に出たすべての食事を控える必要もないということ。

このパラダイムシフトにより、IgG検査は「賛否両論のあるアレルギー検査」から、「腸の健康状態を評価し、全身の慢性炎症の原因を探るための論理的で価値あるツール」へと生まれ変わるのです。

科学的根拠は? – IBS、頭痛、皮膚疾患への臨床応用

リーキーガットを介したIgG検査の解釈モデルは論理的ですが、その臨床的な有用性は科学的なエビデンスによって裏付けられなければなりません。この章では、このアプローチが単なる理論ではなく、国際的な医学研究によってその有効性が示唆されていることを、具体的な疾患への応用例とともに解説します。

過敏性腸症候群(IBS)に対する有効性

IBSは、腹痛や便通異常が慢性的に続くにもかかわらず、検査では異常が見つからない疾患です。多くの患者さんが食事との関連を自覚しており、IgG検査の有用性が最も活発に研究されてきた分野の一つです。

  • ランドマーク的研究: 2004年に消化器病学の学術誌『Gut』に掲載されたAtkinsonらによる研究は、この分野における画期的なものです。150人のIBS患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、IgG検査に基づいて陽性食品を除去する食事療法を行ったグループは、偽の食事療法を行ったグループに比べて、IBS症状が有意に大きく改善したことが示されました。これは、IgG検査に基づく食事指導がIBS症状の緩和に有効である可能性を、質の高いエビデンスで初めて示したものです(Atkinson W. ほか, Gut, 2004年.)。

片頭痛や慢性頭痛への応用

原因不明の慢性的な頭痛に悩む人々の中にも、特定の食物が引き金となっているケースが少なくありません。

  • 除去食による改善: IgGを介した食物過敏症と片頭痛の関連を示唆する複数の研究が存在します。ある研究では、IgG検査で陽性となった食物を除去する食事療法によって、片頭痛の頻度、日数、および重症度が有意に減少したことが報告されています(Alpay K. ほか, Cephalalgia, 2010年.)。

アトピー性皮膚炎など皮膚疾患との関連

「皮膚は内臓の鏡」、特に「腸の鏡」と言われるように、腸の健康状態と皮膚の状態は密接に関連しています(これを「腸-皮膚相関 Gut-Skin Axis」と呼びます)。

  • 腸と皮膚のつながり: リーキーガットによって血中に漏れ出した炎症性物質や免疫複合体が全身を巡り、皮膚で炎症反応を引き起こすことが、アトピー性皮膚炎やニキビ、乾癬などの皮膚疾患を悪化させる一因と考えられています。IgGガイド下の食事除去が症状の改善につながったとする報告も複数あります(Wang Y. ほか, Frontiers in Immunology, 2024年.)。

最新の科学的証拠:IgG抗体とリーキーガットマーカーの直接的関連

これまでの研究は、主に臨床的なアウトカムを示すものでした。しかし、近年の研究はさらに一歩進み、IgG抗体価の上昇と、リーキーガットの客観的なバイオマーカーとの間に直接的な関連があることを分子レベルで証明し始めています。

  • 2022年に栄養学の国際誌『Frontiers in Nutrition』に掲載された研究では、食物特異的IgG抗体と、リーキーガットの主要なバイオマーカーである抗LPS抗体(腸内細菌の毒素に対する抗体)および抗オクルディン/ゾヌリン抗体(タイトジャンクション構成タンパク質に対する抗体)のレベルを比較しました。その結果、食物特異的IgG抗体のレベルが高いほど、これらのリーキーガットマーカーのレベルも有意に高いという、強い正の相関関係が示されました(Peruhova M. ほか, Antibodies, 2022年.)。

この研究は、IgG検査の結果が単なる食事内容の反映ではなく、実際に腸管バリアの破綻という物理的な現象と連動していることを示す強力な科学的証拠です。これは、IgG検査をリーキーガットの評価に用いるという当院のアプローチの正当性を、分子生物学的に裏付けるものです。

東京原宿クリニックのアプローチ – 根本原因を特定する多角的精密検査

遅延型フードアレルギー検査(IgG検査)が、リーキーガットを評価する上で非常に有用なツールであることは、これまでの章で解説した通りです。しかし、当院では、この検査だけで診断を完結させることは決してありません。

なぜなら、IgG検査は「腸が漏れている」という結果を示唆するものであっても、「なぜ漏れているのか」という根本原因までは教えてくれないからです。

真の健康を取り戻すためには、対症療法ではなく、不調の根源を断つ「根本治療」が必要です。そのために、当院ではIgG検査を入り口としながら、以下に紹介するような多角的かつ精密な検査を組み合わせ、患者様一人ひとりの体の内部で何が起きているのかを詳細に解明します。

IgG検査の精度を高める「C3d」測定の重要性

当院で採用している一部の遅延型フードアレルギー検査は、単にIgG抗体を測定するだけではありません。C3d(補体3d)というマーカーを同時に測定します。(※測定時には、普通の食物アレルギー検査ではなく、”FITパネル”でご用命ください)

  • C3dとは?: IgG抗体が食物抗原と結合して「免疫複合体」を形成した際、この複合体が免疫システムの別の部門である「補体系」を活性化させることがあります。C3dは、この補体系が活性化した際に産生される炎症性のタンパク質です。
  • デュアルマーカーの意義: IgGとC3dを同時に測定することで、単なる食物曝露による「ノイズ」と、臨床的に意味のある「真の炎症反応」とを区別する精度が格段に向上します。これにより、除去すべき食品のターゲットをより明確に絞り込むことが可能になるのです。

リーキーガットの直接的証拠「ゾヌリン検査」

IgG検査がリーキーガットの「間接的」な指標であるのに対し、その「直接的」な証拠を捉えるのがゾヌリン検査です。

  • ゾヌリンとは?: ゾヌリンは、腸のタイトジャンクションの「鍵」のような役割を果たすタンパク質です。ゾヌリンが分泌されると、タイトジャンクションが緩み、腸の透過性が亢進します。血中のゾヌリン濃度を測定することは、リーキーガットの有無や重症度を直接的に評価する、科学的に確立されたバイオマーカーとなります。ゾヌリンは、FITパネル検査でつけることができます。

腸内環境の全体像を把握する「GIMAP検査」

腸が漏れていることが確定したら、次なる問いは「なぜ?」です。その答えを探るための最も強力なツールの一つが、次世代の便総合解析検査であるGIMAP検査です。

  • GIMAP検査とは?: 最新のDNA解析技術を用いて、便の中に存在する様々な微生物(病原体、善玉菌、悪玉菌、日和見菌、真菌・カンジダ、寄生虫、ウイルスなど)のDNAを網羅的かつ定量的に検出する検査です。
  • GIMAP検査でわかること: リーキーガットを引き起こしている根本原因、例えば「特定の悪玉菌の増殖」「カンジダ感染」「消化酵素の不足」「腸の炎症度」などを具体的に特定するための、まさに「犯人捜し」の検査です。GIMAP検査については、こちらもご参照ください。

代謝とカンジダを評価する「有機酸検査」

有機酸検査は、尿中の代謝産物を測定することで、体の細胞レベルでのエネルギー産生や代謝の様子を映し出す検査です。特に、カンジダ菌などのイースト菌が産生する特有の有機酸を検出することで、腸内での真菌の異常増殖を評価できます。有機酸検査につきましてはこちらもご参照ください。

根本原因を特定するための診断アプローチ

当院の統合的評価システムのまとめ

検査名測定対象臨床的意義
遅延型フードアレルギー検査(IgG + C3d)100種類以上の食物へのIgG/C3d反応「結果」の評価: 腸管バリア機能低下の指標、現在炎症を引き起こしている食物の特定
ゾヌリン検査血中ゾヌリン値「状態」の確定: リーキーガットの直接的な証拠、重症度の評価
GIMAP検査便中の病原体、腸内細菌叢、炎症、消化酵素「原因」の特定: リーキーガットの根本原因(感染、ディスバイオーシス等)の特定
有機酸検査尿中の代謝産物「影響」の評価: カンジダ増殖、ミトコンドリア機能、栄養素欠乏など全身への影響を評価

このように、単一の検査結果に依存するのではなく、複数の精密検査から得られる情報を統合的に分析することで、初めて患者様一人ひとりの不調の根本原因にたどり着き、的確な治療計画を立てることが可能になるのです。

検査から根本治療へ – あなただけのオーダーメイド治療プラン「5Rプログラム」

前章で解説した多角的な精密検査の最大の目的は、診断を下すこと自体ではありません。その詳細な情報に基づいて、患者様一人ひとりの体の状態に完璧に合わせた、オーダーメイドの根本治療プランを策定することにあります。

当院では、機能性医学の領域で確立されている腸機能改善のためのアプローチ「5Rプログラム」を治療の柱としています。これは、5つのステップを通じて、体系的に腸の健康を取り戻すための戦略です(Patel S.M. & Young M.C., Physical Medicine and Rehabilitation Clinics of North America, 2022年.)。

5Rプログラム

1. Remove(除去)

最初のステップは、腸に負担をかけ、炎症を引き起こしている原因物質を徹底的に取り除くことです。

  • 炎症性食品の除去: IgG検査で高い反応を示した食品を、一定期間(通常3~6ヶ月)食事から除去します。ただし、すべての食品を除去するわけではありません。反応を示した食品のうち、影響の大きそうなものに限って制限します。全てを制限してしまうと、それこそ栄養不足になってしまうからです。
  • 病原体の除去: GIMAP検査などで特定された病原体(悪玉菌、カンジダ、寄生虫など)を、天然の抗菌ハーブや必要に応じて医薬品を用いて排除します。

2. Replace(補充)

次に、正常な消化・吸収に不可欠な要素を補充します。

  • 消化酵素の補充: GIMAP検査で消化酵素の低下が見られた場合、総合消化酵素のサプリメントで消化を助けます。
  • 胃酸のサポート: 胃酸の分泌が低下している場合は、タンパク質の消化を助けるために塩酸ベタインなどを補充します。

3. Reinoculate(再接種)

有害なものを取り除いたら、次は健康な腸内フローラを育てるステップです。

  • プロバイオティクスの投与: GIMAP検査の結果に基づき、不足している善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌など)を、適切な種類と量で補充します。
  • プレバイオティクスの活用: 善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖(プレバイオティクス)を食事から積極的に摂取します。

4. Repair(修復)

このステップでは、リーキーガットによって傷ついた腸の粘膜バリアそのものを修復するための栄養素を重点的に供給します。

  • 粘膜修復のための栄養素: L-グルタミン、亜鉛、ビタミンA、ビタミンD、オメガ3脂肪酸、コラーゲンなど、腸壁の修復をサポートする栄養素を分子栄養学に基づいて処方します。

5. Rebalance(再調整)

最後のステップは、腸の健康に影響を与えるライフスタイル全体のバランスを整えることです。

  • ストレス管理: 副腎疲労の評価や、リラクゼーション、適切な休息などを通じて、ストレスへの対処法を指導します。
  • 食事内容の見直し: 除去期間が終わった後も、多様な野菜や発酵食品を中心とした、腸に優しい食生活を継続することが長期的な健康の鍵となります。
  • 睡眠・運動: 質の高い睡眠と適度な運動は、全身の炎症を抑え、腸の健康をサポートします。

この5Rプログラムの最終的な目標は、単に不快な症状を取り除くだけではありません。腸のバリア機能を再建し、免疫系を正常化させることで、以前は反応していた多くの食品を再び安全に楽しめるようになること、そして、病気になりにくい真に健康な体質を根本から作り上げることです。

食事を改善してもなかなか体調が改善されないという方は、ぜひ一度、東京原宿クリニックの栄養外来をご検討ください。

症例提示(30代男性・慢性蕁麻疹)

症例をご覧になりたい方はクリックしてください。

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患者データ: 30代男性。主訴:原因不明の慢性蕁麻疹(じんましん)。
経過: 数年来、体に繰り返す蕁麻疹に悩まされ、他院で「リーキーガット症候群」と診断されていました。そこでは食事療法(グルテン除去など)を指導され実践していたものの症状が改善しなかったため、当院を受診されました。

検査と治療: 初診時に提出された他院の遅延型フードアレルギー検査結果では小麦に対するIgG反応(遅発型アレルギー)が陽性で、小麦除去食が指導されていましたが症状は改善せず。当院で詳細に検討したところ、パン酵母カンジダ・アルビカンスに対するIgGも高値であることが判明しました。そこで腸カンジダ症によるリーキーガット症候群と判断し、抗真菌薬と抗真菌ハーブ(サプリメント)によるカンジダ除菌治療を2ヶ月間実施しました。その結果、2ヶ月後には慢性蕁麻疹が消失し、以降再発も認められませんでした。

食物アレルギー検査1
食物アレルギー検査2

考察: この症例では小麦除去だけでは不十分でしたが、腸内のカンジダ菌を減らす治療を行ったことで腸粘膜の炎症が収まり、結果的に蕁麻疹という免疫反応が治まったと考えられます。リーキーガット症候群の原因は一人ひとり異なるため、包括的な検査で真の原因を突き止め、それに対応した治療を行うことの重要性が示されたケースです。

治療にかかった費用(参考): 初診料 11,000円(税込)、抗真菌薬・抗真菌サプリメント(2ヶ月分)50,400円(税込)

遅延型フードアレルギー検査に関するQ&A

ここまで詳しく解説してきましたが、実際に検査を検討されている方々が抱く、より実践的な疑問についてお答えします。

Q1: 検査の費用はどのくらいですか? 保険は適用されますか?

A: 遅延型フードアレルギー検査および関連する精密検査は、現時点では健康保険の適用外となり、全額自己負担の自由診療となります。費用は検査項目数や検査機関によって異なりますが、一般的にIgG検査単体で3万円~5万円程度です。ただし、上記のようにIgGに加え「C3d」測定も加えてリーキーガットをより詳細に見る場合は、7万~10万円程度になります。具体的な費用については、ウェブサイトの料金表をご確認ください。費用が高額になる理由としては、検体を海外の専門分析機関に送付する必要があることによります。

Q2: 自宅でできる検査キットとクリニックの検査は何が違いますか?

A: 最も重要な違いは、専門家による総合的な解釈と、その後の治療への繋がりです。検査キットは「生データ」を提供するだけですが、そのデータが何を意味するのかを正しく解釈し、根本治療に繋げるには、深い医学的知識と臨床経験が不可欠です。当院では、IgG検査の結果を、患者様の詳しい問診、症状、そしてゾヌリン検査やGIMAP検査といった他の客観的データと照らし合わせ、総合的に評価します。自己判断での食事制限は、学会が懸念するような誤った対応に繋がりかねません。

Q3: どのような症状があれば、この検査を考えた方が良いですか?

A: 以下のような、原因不明の慢性的な不調が長期間続いている場合に、この検査が解決の糸口になる可能性があります。

  • 消化器系の不調: 病院で「異常なし」と言われた過敏性腸症候群(IBS)、慢性的な腹部膨満感、ガス、便秘や下痢。
  • 皮膚のトラブル: 薬を塗っても繰り返すニキビ、アトピー性皮膚炎、湿疹、原因不明の肌荒れ。
  • 精神・神経系の不調: 慢性的な疲労感、ブレインフォグ、集中力の低下、理由のない気分の落ち込みや不安感、片頭痛。
  • その他: 原因不明の関節痛、筋肉痛、むくみなど。特に、「複数の医療機関を受診したが、原因がわからず、『ストレス』や『体質』で片付けられてしまった」という方にこそ、検討する価値のある検査です。

Q4: 陽性反応が出た食品は、一生食べられないのでしょうか?

A: いいえ、必ずしもそうではありません。 これは非常によくある誤解ですが、当院のアプローチの目標は、生涯にわたる食事制限ではありません。陽性食品の一時的な除去は、傷ついた腸粘膜バリア(リーキーガット)を修復するための「治療期間」です。5Rプログラムなどを通じて腸内環境が改善し、バリア機能が正常化すれば、以前は反応していた食品の多くを、症状なく再び食べられるようになるケースがほとんどです。そして、陽性に出たものをすべて制限するということも指導しておりません。最終的には食事の多様性を取り戻すことを目指します。

まとめ: 症状の根本原因に向き合い、真の健康を取り戻すために

本記事では、「遅延型フードアレルギー検査」をめぐる長年の論争と、その核心にあるパラダイムについて、科学的根拠を交えながら詳細に解説してきました。

結論として、この検査を「即時型アレルギー診断」という古い物差しで測れば、「意味がない」という批判は一理あります。しかし、現代の機能性医学の視点、すなわち「腸の健康状態、特にリーキーガットを評価する指標」として捉え直したとき、遅延型フードアレルギー検査は、原因不明の慢性症状の根本原因を解明するためのツールへと変貌します。

重要なのは、IgG検査の結果はゴールではなく、あなたの体質改善の旅のスタート地点であるということです。多数の食品への陽性反応は、あなたの体が発している「腸のバリアが壊れています」という悲鳴かもしれません。

そのサインを正しく受け止め、ゾヌリン検査やGIMAP検査といった、より深く、多角的な検査へと進むことで、なぜ腸がそのような状態になってしまったのか、その根本原因を突き止めることができます。

もしあなたが、この記事で解説したような症状に長年悩み、いくつもの病院を巡っても解決策が見つからず、途方に暮れているのであれば、それは腸からの重要なサインかもしれません。その不調は「体質」や「気のせい」などでは決してありません。

当院では、今回ご紹介した多角的な精密検査を通じて、あなたの不調の根本原因を分子レベルで突き止め、一人ひとりの体の状態に合わせた最適なオーダーメイドの治療プランをご提案します。薬に頼り切るのではなく、人間が本来持つ自然治癒力を最大限に引き出し、根本から自立するお手伝いができればと思います。

食事を改善してもなかなか体調が改善されないという方は、ぜひ一度、東京原宿クリニックの栄養外来をご検討ください。

オンライン診療対象地域

北海道と沖縄県はバイオロジカル検査の送付ができません。バイオロジカル検査の送付が必要なければオンラインでの診察はできます。

青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県

最後に(免責)

本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。

病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。

基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。

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