表参道・原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。
何をするにもやる気が起きない、常に疲れている、集中力が続かないなど、日常生活に支障をきたすような無気力状態が続いていませんか?長期間続く無気力感や、何もする気が起きない(アパシー)、頭が働かない(ブレインフォグ)などが続いている場合、単なる疲れや怠けではなく「無気力症候群」を考えた方がいいかもしれません。今回は、無気力症候群について、西洋医学的な視点と分子栄養学・機能性医学の観点から原因と対策をお話したいと思います。
また、公式LINEでは腸内環境の改善や体調管理に関する情報を随時お届けしています。お得なクーポンも配布していますので、ぜひご登録ください。

Contents
無気力症候群(アパシー)とは
無気力症候群(アパシー)とは、意欲や興味が著しく低下し、何事にもやる気が出ない状態を指します。医学的には、外部から見て目標に向かって行動しようとする意欲の欠如、自発性の低下、関心や感情表現の乏しさを特徴とします。本人の怠けや意思の弱さではなく、脳や体のバランス不調によって自分では制御できない状態である点が重要です (参考)。本記事では、この無気力症候群について、西洋医学・分子栄養学・機能性医学の観点からエビデンスを交えて原因と対策を整理します。
西洋医学的視点:無気力症候群の定義と関連要因
西洋医学では、アパシー(無気力)は症候群として捉えられ、さまざまな疾患に付随する症状の一つです。一見うつ病と似ていますが、アパシーそのものは必ずしも抑うつ気分を伴わず、「悲しい」「絶望的」といった感情よりも意欲や関心の欠如が際立つ点で異なります。とはいえ、うつ病や統合失調症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患ではエネルギー低下や興味喪失の症状の一部としてアパシーが出現することがあり、両者が重なっているケースも少なくありません。また、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病など神経変性疾患でも無気力症候群がしばしば認められます。実際、パーキンソン病患者の約40%に無気力が生じるとの報告があり (参考)、脳内ドーパミン不足による意欲低下が一因と考えられています。この場合、ドーパミンを補充する薬剤(レボドパやドーパミン受容体作動薬)の増量によって無気力症状が改善することも報告されています。

ホルモンバランスの乱れも無気力の重要な原因です。代表的なのが甲状腺ホルモンの不足で、甲状腺機能低下症では思考や発話のスピード低下、注意力の低下、そしてアパシー(無関心・無気力)がしばしばみられ (論文)、ときにうつ病と誤診されることもあります。適切な甲状腺ホルモン補充療法によってこうした症状が改善するケースが多く、甲状腺の評価は無気力患者に必須です。また、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌異常もエネルギーと意欲に影響します(これについては後述の副腎疲労で触れます)。血糖コントロールの異常も見逃せません。インスリン抵抗性があると細胞が血糖をうまく取り込めずエネルギー不足になりやすく、スタンフォード大学の研究ではインスリン抵抗性の人はそうでない人に比べ、将来うつ病になるリスクが2倍に高まることが示されました (参考)。実際、血糖値の乱高下は気分や活力に大きく影響し、急激な血糖変動はイライラ感や不安感など精神症状を悪化させうることが報告されています。糖尿病患者では血糖値の不安定な変動が生活の質低下や抑うつ気分と関連し、血糖値が高すぎる時には怒りや悲しみが増し、低血糖時には不安感が増すという報告もあります。

さらに、慢性炎症も近年注目される要因です。体内で炎症反応が続くと、脳に作用して「サイトカイン誘発性の病態行動」と呼ばれる状態を引き起こし、活動性の低下や抑うつ様症状、エネルギー喪失をもたらすことが分かっています (論文)。また、うつ病患者の中でも炎症マーカー(IL-6やCRPなど)が高い亜集団では、典型的な抑うつ感情よりも快感や興味の喪失(アンヘドニア)や倦怠感といった意欲低下の症状が強い傾向があることが明らかになっています (論文)。つまり炎症は「やる気が出ない」「常に疲れている」という症状クラスターと特に結びつきが強いのです。このような炎症関連の無気力には抗炎症薬が有効な場合も報告されており、慢性炎症の評価(例えば血液中のCRP測定など)は無気力症候群の原因究明において重要です。
西洋医学的な治療法としては、まず上述のような根底にある疾患や異常を治療・管理することが基本となります。うつ病が関与していれば抗うつ薬や認知行動療法など精神科的アプローチが検討されます(ただしアパシー単独の場合、SSRIなど抗うつ薬が却って無気力を悪化させる場合もあると報告されています)。内分泌異常があればホルモン補充(甲状腺ホルモンや、副腎不全があればステロイド補充など)を行います。糖代謝異常に対しては食事療法や必要に応じて薬物療法で血糖コントロールを是正します。さらに、パーキンソン病に伴う無気力にはドーパミン作動薬の調整、アルツハイマー病に伴う無気力には中枢刺激薬やコリンエステラーゼ阻害薬の使用が試みられることがあります。また、生活リズムを整えたり、リハビリテーションで日中の活動性を上げることも西洋医学的には勧められます。ただし、無気力症候群自体に対する「これさえ飲めば治る」という特効薬は存在しないのが現状であり、原因の除去と環境調整、サポートが中心となります。

公式LINEでは、体調不良などの症状の改善のヒントとなる情報を配信しています。また、随時お得なクーポンなども配布しております。是非公式LINEにご登録ください。
無気力症候群かのセルフチェックテスト
自分が無気力症候群に当てはまるかどうか、またその原因のあたりをつけるセルフチェクテストをしてみましょう(これはあくまでも診断ではありませんので、参考にしてください)。また、その原因がおおよそどこにあるのかを目星をつけながら以下の文章も読んでみましょう。
メールでのご相談をご希望の場合は、「お問い合わせフォーム」よりお願いいたします。
分子栄養学的視点:栄養不足とエネルギー代謝の関係
分子栄養学(オーソモレキュラー栄養療法)の視点では、体内のビタミン・ミネラルなど微量栄養素の不足が細胞レベルのエネルギー産生低下や神経伝達物質合成の乱れを招き、無気力状態に陥ると考えます。特に、以下の栄養素不足が無気力に関与しやすいことがわかっています。
- ビタミンB群: ビタミンB1やB2、ナイアシン(B3)、パントテン酸(B5)、B6、葉酸(B9)、B12といったビタミンB群は糖質や脂質をエネルギーに変える代謝や、神経伝達物質(セロトニンやドーパミン等)の合成に不可欠です。これらが不足するとエネルギー不足からくる疲労感や倦怠感に加え、脳内物質の不足による抑うつ・無気力状態が生じやすくなります。実際、ビタミンB群が欠乏すると「疲れやすい」「無気力」「全身のだるさ」といった症状が現れることが報告されています (参考)。中でも葉酸やB12不足は貧血や神経障害を引き起こし、深い抑うつや認知機能低下を伴うこともあります。逆に十分なB群補給はエネルギーレベルと脳機能の維持に寄与し、無気力の改善に重要です。
- 鉄: 鉄欠乏は世界的に見ても多くの人にみられる栄養問題で、特に女性に多い傾向があります。鉄は赤血球で酸素を運ぶヘモグロビンの構成要素であり、さらに脳内でドーパミン合成にも関与します。したがって鉄不足により貧血になると全身の酸素供給低下から疲労感や集中力低下が起こるだけでなく、脳内のドーパミン産生低下によって気分の落ち込みや無関心が生じやすくなります (論文)。実際、鉄欠乏性貧血の患者では疲労感・気分の落ち込み・不安感など精神症状を訴えることが多く、鉄補充療法によってそれらの症状が改善したとの報告があります。無気力症状を訴える方では鉄(フェリチン)の検査を行い、不足があれば食事やサプリメントで適切に補うことが有効です。

- 亜鉛: 亜鉛は100種類以上の酵素の構成要素となる必須ミネラルで、味覚や免疫、ホルモン合成、脳の発達・神経機能に広く関与します。亜鉛不足になると食欲不振や免疫低下だけでなく精神的な無気力(メンタルなだるさ)や認知機能低下を引き起こすことが知られています (論文)。実際、うつ病患者の亜鉛値は健常者に比べて低い傾向があり、亜鉛補充が抗うつ薬の効果を高めたという研究もあります。また亜鉛は抗酸化酵素の構成成分でもあるため、不足すると酸化ストレスによるダメージが蓄積しやすく、それがさらなる無気力状態に繋がる悪循環も考えられます。亜鉛不足についてはこちらもご参照ください。
- マグネシウム: マグネシウムはエネルギー産生(ATP生成)や神経の興奮抑制、筋肉の弛緩など身体機能の基本に関わるミネラルです。不足すると疲労感や筋肉のこわばり、睡眠障害など様々な不調をきたしますが、精神面でも不安感の増大や気分変調を招きます。特に重度の欠乏では人格変化としてアパシー(無関心)、抑うつ、興奮、混乱、さらにはせん妄に至ることも観察されています (論文)。動物実験ではマグネシウム欠乏食を与えたマウスに抑うつ様の振る舞い(活動性低下など)が現れ、抗うつ薬投与で改善したとの報告もあります。これはマグネシウム不足が脳内のストレス反応を増幅させている可能性を示唆します。慢性的な無気力や不安を抱える人ではマグネシウム不足を疑い、食品(海藻、ナッツ、豆類、葉物野菜など)やサプリメントでの補給が有用です。

上記のような栄養欠乏を是正することは、細胞レベルでのエネルギー産生を高め、神経伝達物質の合成を正常化するため、無気力症状の改善に直結します。
血糖値の乱高下も分子栄養学的に重要な視点です。脳はブドウ糖を主なエネルギー源としていますが、血糖値が急激に上下するとその供給が不安定になり、エネルギー不足や精神症状を引き起こします。食後に血糖値が急上昇すると、それに応じてインスリンが過剰に分泌され、反動で低血糖状態になることがあります(反応性低血糖)。このような血糖の乱高下は交感神経を刺激し不安感や動悸、発汗を起こすほか、脳へのエネルギー低下から集中力の低下やイライラを招きます。健常者でも精製糖質(砂糖や白いパンなど)を大量に摂る食生活は、血糖スパイクと低血糖を繰り返し、「食べてもすぐエネルギー切れでだるい」「夕方に無気力になる」といった状態を招きます。したがって無気力症候群の対策には血糖値を安定させる食事(高タンパク・高繊維質で低GIの食事)が勧められます。加えて、慢性的な高インスリン状態(メタボリックシンドロームなど)は脳のインスリン抵抗性を引き起こし、認知機能や気分に悪影響を与える可能性があります。血糖異常が疑われる場合には、空腹時血糖やHbA1cだけでなくインスリン値や食後の血糖変動もチェックし、必要なら栄養指導やサプリメント(クロムやαリポ酸、食物繊維など)で改善を図ります。

酸化ストレスも無気力の隠れた原因となりえます。私たちの体はエネルギー産生の過程で活性酸素を生み出しますが、ビタミンCやビタミンE、グルタチオンなどの抗酸化物質によって普段はうまく中和されています。ところが栄養不足やストレス、喫煙・過度の飲酒、慢性炎症などにより活性酸素が過剰になると、細胞が酸化ダメージを受けてしまいます。脳は酸化ストレスに弱いため、酸化ダメージの蓄積は脳疲労や抑うつ、無気力に直結します (論文)。実際、うつ病患者では健常者に比べ抗酸化栄養素(ビタミンA・C・E、セレン、亜鉛、そして前述のビタミンB群)の摂取量が少ないことが報告されています。抗酸化物質が不足し酸化ストレスが高い状態では炎症も悪化しやすいため、無気力症候群の方には抗酸化対策も重要です。具体的には、ビタミンCやビタミンE、ポリフェノールやコエンザイムQ10などを十分に摂ることが推奨されます。例えば、ビタミンCについて行われた研究では、血中ビタミンC濃度が低い人は「活力(バイタリティ)」の指標が低く、4週間のビタミンC補給を行ったところ注意力と仕事への没頭度(やる気)の有意な向上が見られ、疲労感も改善傾向を示しました。このように抗酸化ビタミンを補うことはエネルギーレベルと集中力・意欲の底上げに有効と言えます。

機能性医学的視点:腸内環境・副腎・炎症から考える無気力
機能性医学では、体全体の機能バランスの乱れが無気力を招くという包括的な視点で原因を探ります。特に腸内環境の悪化、ストレスによる副腎機能低下(副腎疲労)、そして慢性炎症の3つは相互に関連しながら無気力症候群を引き起こす主要因と考えられています。

腸内環境の悪化(リーキーガット・SIBO・腸カンジダ)と無気力
私たちの腸は単に栄養を消化吸収する器官ではなく、腸脳相関といって脳と密接にコミュニケーションしています。腸内細菌叢の乱れや腸粘膜バリアの異常は、全身の炎症反応や神経伝達物質の産生に影響を及ぼし、結果的に脳の機能や気分にも作用します。

- リーキーガット: 腸管壁の透過性が増して本来吸収されないはずの細菌や未消化物質が血中に漏れ出す状態を腸漏れ症候群(リーキーガット)と呼びます。リーキーガットが生じると内毒素(LPS)などの炎症誘発物質が全身を巡り、慢性的なサイレント炎症を引き起こします。これら炎症性サイトカインが脳に到達すると、先述のように意欲の低下や倦怠感(サイトカイン誘発性の病態行動)を誘発します (論文)。実際、健康な被験者にごく少量の内毒素を投与する実験では、一時的に抑うつ気分やアパシー様の状態が生じたことが報告されています。つまり、腸の漏れた毒素が脳のやる気スイッチをオフにしてしまうわけです。リーキーガットの原因としては、腸炎や食事中の添加物・アルコール過剰、グルテンなどに対する過敏反応、慢性的なストレスによる腸粘膜血流低下などが挙げられます。リーキーガットが疑われる場合、腸粘膜を修復する栄養療法(グルタミンや亜鉛カルノシンの補給、炎症を抑えるEPAの摂取など)や原因食品の除去でバリア機能を回復させることが重要です。リーキーガットの改善については、くわしくはこちらもご参照ください。

- SIBO(小腸内細菌異常増殖): 本来、腸内細菌の大多数は大腸に存在しますが、小腸に過剰な細菌が繁殖する状態をSIBOといいます。SIBOになると慢性的なお腹の張りや消化不良を起こすだけでなく、腸管内で発生するガスや細菌代謝産物が腸粘膜を刺激してリーキーガットを助長したり、栄養素の吸収不良を引き起こします。近年の研究で、SIBO患者はそうでない人に比べて有意にうつ病や不安症状を抱えている割合が高いことが報告されました (論文)。さらにSIBOによる栄養不足(特にビタミンB12不足など)や腸‐脳間の迷走神経を介した信号が、脳の機能低下や気分変調に関与している可能性も指摘されています。SIBOの改善には食事中の発酵性糖質(FODMAP)の制限や、必要に応じた抗菌療法・プロバイオティクスの活用が有効です。当院でも腸内環境検査などでSIBOを確認し、適切な治療を行うことでお腹の症状だけでなく精神的な霧(ブレインフォグ)や無気力感が改善した例も多く経験しています。SIBOについてはこちらをご参照ください。

- 腸内カンジダ: 腸内に常在するカンジダ属真菌(いわゆる酵母菌)の異常増殖も、機能性医学では無気力の隠れた原因として注目されています。腸カンジダ症では、慢性的な疲労感、頭がボーッとする感じ、筋肉・関節痛、さらにはうつ症状などがみられることがあり、この状態は慢性疲労症候群(CFS)と症状が重なると指摘する専門家もいます (論文)。さらにカンジダが増えすぎるとアセトアルデヒドなど有害な代謝物が産生され、これが肝臓での解毒を圧迫しつつ脳に達して集中力低下や抑うつをもたらすとも言われます。腸カンジダの改善には、糖質や酵母を控えた食事(抗カンジダ食)や、抗真菌薬・ハーブの活用、プロバイオティクスによる菌叢是正が有効です。当院では尿中有機酸検査にてアラビノース(カンジダ代謝物)を測定し過剰増殖の有無をチェックしたり、GI-MAP検査で腸内のカンジダ菌量を把握して、必要な場合にはそれに応じた対策を行っています。腸カンジダについてはこちらをご参照ください。

公式LINEでは、体調不良などの症状の改善のヒントとなる情報を配信しています。また、随時お得なクーポンなども配布しております。是非公式LINEにご登録ください。
副腎疲労(ストレスとコルチゾール分泌リズムの乱れ)
絶えずストレスにさらされる現代人に多いのが副腎疲労(アドレナルファティーグ)です。副腎はストレスに対処するホルモンであるコルチゾールを分泌する器官ですが、慢性的なストレスにより酷使されると次第に反応が鈍くなり、コルチゾールの日内リズムが乱れてしまいます。朝に十分コルチゾールが分泌されず、夕方〜夜にかけて逆に高くなるといったパターンや、終日コルチゾール分泌が低迷した平坦なパターンは、副腎疲労に典型的です。こうなると朝からエネルギーが湧かず、日中もコーヒーなど刺激物なしには動けない、一方で夜になると妙に目が冴えて眠れない…といった状態に陥ります。実際、長期間強いストレスに晒された燃え尽き症候群(バーンアウト)の患者では、健常者に比べコルチゾールの日内変動が平坦化しているケースが報告されています。また症状が重い人ほどストレス負荷試験時の唾液コルチゾール反応が低下しており、重度のバーンアウトでは副腎から十分なコルチゾールが出せなくなっている(低コルチゾール状態)可能性が示唆されています (論文)。コルチゾールは適正な量であれば覚醒度を維持し炎症を抑える重要なホルモンですが、不足すると低血圧や低血糖を招きやすく、慢性的な倦怠感と無力感に繋がります。

副腎疲労に対する西洋医学的な正式診断は存在しませんが、この状態への対応としては生活習慣の改善と栄養療法が中心になります。十分な休養・睡眠を取り、副腎を酷使するカフェインや夜更かしを避けることが第一です。栄養面では副腎機能を支えるビタミンCやB5(パントテン酸)、マグネシウム、良質なたんぱく質などをしっかり補給します。必要に応じて、朝に塩分(水に天然塩をひとつまみ入れて飲む等)やハーブ(甘草やアシュワガンダなど)でコルチゾールの立ち上がりを助け、夜はメラトニンやハーブ(レモンバームやカモミールなど)で睡眠をサポートするなど、日内リズムの再構築を図ります。まずは唾液中コルチゾール検査などで日内変動を把握し、重症度に応じた対策をオーダーメイドで講じていくことが重要です。当院でも6点唾液コルチゾール検査で副腎の状態を評価し、必要に応じた栄養・生活指導を行っています。
慢性炎症と脳機能低下
前述の腸内環境の乱れや副腎疲労とも関連しますが、慢性炎症(サイレント炎症)そのものが脳の働きを鈍らせ、無気力状態を引き起こすメカニズムが解明されつつあります。慢性炎症では血中に炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-α、インターフェロンなど)が上昇しますが、これらが血液脳関門を突破して中枢神経に作用すると、脳内の神経伝達物質バランスが乱れたり神経新生が抑制されることが分かっています (論文)。特に報酬系と呼ばれる「やる気」や「快感」に関与する脳内回路(ドーパミン神経系)は炎症に影響されやすく、炎症性サイトカインが過剰な状態ではドーパミン分泌が低下し楽しみや意欲を感じにくくなります。炎症が続くと脳の海馬や前頭前野の萎縮・機能低下も引き起こされるため、記憶力や判断力の低下、いわゆるブレインフォグ(頭のもやもや)も併発し、「何をするにも頭が働かずおっくうだ」という状態に拍車をかけます。

慢性炎症の原因としては、腸内毒素の流出や慢性感染(歯周病、副鼻腔炎などの慢性副鼻腔炎)、肥満や高血糖による内因性炎症、環境中の化学物質(大気汚染やカビ毒など)への曝露、心理的ストレスなど多岐にわたります。血液検査でCRPや赤沈、サイトカイン値を測定し炎症の程度を把握するとともに、その原因検索を行うことが大切です。例えば腸内環境が原因であれば前述の対策を、肥満が原因であれば食事・運動による減量を、感染症があればその治療を行います。抗炎症作用のある栄養素(オメガ3脂肪酸、ビタミンD、ターメリックなど)を積極的に摂り、必要に応じて医師の判断で抗炎症薬や漢方を用いることもあります。炎症が鎮まるとともに脳内のドーパミン機能が回復し、徐々に「やる気」が戻ってくることが期待できます。
無気力症候群への統合的アプローチ:栄養療法と生活改善
無気力症候群は単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って発症しているケースがほとんどです。したがって、根本的な改善には身体の状態を総合的に評価し、個別の原因に合わせた統合的アプローチを取ることが重要です。当院では西洋医学の知見に加え、分子栄養学・機能性医学の観点から詳しく評価を行い、以下のような段階的アプローチで無気力症候群の改善を目指します。

1. 根本原因の評価(検査)
まずは無気力の原因を正確に突き止めるため、必要な検査を組み合わせて包括的な健康チェックを行います。具体的には、GI-MAP検査などの便検査による腸内環境の分析(有益菌・悪玉菌のバランス、カンジダや病原菌の有無、消化機能の指標など)、有機酸検査(尿中に排出される代謝産物の分析による栄養状態・腸内代謝物・神経伝達物質代謝の評価)、詳細な血液検査による栄養素やホルモン・炎症マーカーの測定(ビタミン・ミネラル濃度、甲状腺機能、血糖・インスリン、貧血の有無、炎症マーカーや酸化ストレス指標など)を実施します。必要に応じて唾液コルチゾール検査で1日のストレスホルモン分泌リズムを測定し、副腎疲労の程度を評価します。これらの検査結果を総合し、例えば「鉄欠乏と潜在的な甲状腺機能低下がある」「SIBOや腸カンジダによる慢性炎症が疑われる」「ビタミンB群やマグネシウム不足が顕著である」「インスリン抵抗性が見られる」など、一人ひとり異なる無気力の背景要因を明らかにします。

2. 食事による栄養最適化
検査で判明した不足栄養素や問題点を踏まえ、まずは食事内容の改善を行います。基本は、血糖値を安定させつつ必要なビタミン・ミネラルを十分に含む食事です。具体的なポイントは以下の通りです。
- タンパク質の確保: 毎食に良質なたんぱく源(肉・魚・卵・大豆製品など)を含めます。タンパク質は必須アミノ酸の供給源となり、神経伝達物質(ドーパミンの材料であるチロシン、セロトニンの材料であるトリプトファン等)を作るためにも不可欠です。特に朝食でタンパク質を摂ると日中の血糖が安定し、集中力と活力が保ちやすくなります。
- ビタミン・ミネラル豊富な食品: 緑黄色野菜や海藻、ナッツ類、果物などを積極的に摂取し、ビタミンB群やビタミンC、マグネシウム、カリウム、亜鉛、鉄分などを食事からしっかり補給します。例えば貧血気味であればレバーや赤身肉、ほうれん草、貝類を増やす、B群不足が疑われる場合は豚肉や玄米、卵黄などを意識して摂る、といった工夫をします。
- 低GI・高繊維質の炭水化物: 白砂糖や小麦粉製品など高GI(血糖を急上昇させやすい)食品は極力控え、代わりに血糖値が緩やかに上昇する低GIの炭水化物源(玄米、全粒粉パン、オートミール、雑穀、豆類など)を選びます。また野菜や海藻、きのこ類から食物繊維を十分に摂ることで、食後血糖の急激な変動を防ぎ腸内環境も整えます。
- 抗炎症・抗酸化を意識した食材: 慢性炎症や酸化ストレスが疑われる場合、オメガ3系脂肪酸を豊富に含む食品(青魚、亜麻仁油、エゴマ油など)を積極的に摂取します。オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)は体内で抗炎症作用を発揮し、炎症体質を改善するとともに脳細胞の膜構成成分にもなり機能を高めます。また抗酸化物質に富むカラフルな野菜や果物(ベリー類、柑橘類、緑茶、カカオの高いチョコレートなど)を取り入れ、酸化ダメージから細胞を守ります。こうした食事は地中海式食事法にも通じ、うつ病予防・改善に有効であることが複数の研究で示唆されています。

3. サプリメント療法の活用
食事改善だけでは補いきれない栄養素や、早期に集中的な補充が必要と判断される栄養素に関しては、サプリメントを併用した栄養療法を行います。無気力症候群の改善に特に有用と考えられるサプリメントとその作用は以下の通りです。
- ビタミンBコンプレックス: ビタミンB群はエネルギー産生と神経伝達物質合成の要です。不足が確認された場合やストレスが多く消耗が激しい場合、高含有のBコンプレックスサプリで確実に補給します。活性型のメチルB12やメチル葉酸などを含む製剤は吸収・利用効率が良好です。
- 鉄サプリメント: 血液検査でフェリチン低下や貧血が認められた場合、医師の指示の下で鉄剤やヘム鉄サプリメントを用いて鉄を補います。鉄の過剰摂取は有害になり得るため、自己判断でなく専門家の管理下で適切量を補給します。鉄補給により貧血が是正されると、酸素運搬の改善から全身倦怠感が軽減し、脳内のドーパミン合成も活発化して意欲向上が期待できます。
- マグネシウム: ストレスや加工食品中心の食生活で不足しがちなミネラルです。筋肉の凝りや睡眠の質にも関与するため、就寝前にマグネシウム(グリシネートやクエン酸マグネシウムなど)を補うとリラックス効果と眠りの改善が得られ、翌日の活力が増すことがあります。不安感やPMSの軽減効果も報告されています。
- 亜鉛: 亜鉛不足がある場合、亜鉛グリシネートやピコリネートなど吸収の良い形のサプリで補います。亜鉛は味覚や免疫にも大切なので、食欲不振の改善や風邪をひきにくくなる効果も期待できます。うつ症状のある方では一度亜鉛値を確認し、必要なら積極的に補給します。
- オメガ3脂肪酸(EPA/DHA): 魚をあまり食べない方や炎症が強い方には、高品質の魚油サプリメントでオメガ3脂肪酸を補います。無気力症候群の方でも、炎症の軽減と神経膜の機能改善を通じて気分・意欲の向上が期待できます。
- 抗酸化サプリメント: 活性酸素が多い方には、ビタミンC、ビタミンE、αリポ酸、NAC(N-アセチルシステイン)、グルタチオン、コエンザイムQ10などの抗酸化サプリを組み合わせて酸化ストレスを軽減します。例えば高濃度ビタミンCの経口摂取や点滴は抗酸化作用に加え、副腎疲労の改善にも有用です。これら抗酸化物質の補給によって細胞の修復・再生が促され、疲労感や認知機能の改善につながります。
- プロバイオティクス: 腸内フローラを整える乳酸菌・ビフィズス菌などのプロバイオティクスは「メンタルに効く菌(サイコバイオティクス)」として注目されています。腸内環境を整えることで炎症が軽減し、神経伝達物質の産生やホルモンバランスが改善すると考えられます。無気力症候群の方には、高濃度かつ多種の菌株を含むプロバイオティクスサプリメントを用いて腸内環境の是正を図ります。併せて、オリゴ糖や食物繊維などのプレバイオティクスも摂取し、善玉菌が定着しやすい環境を作ります。

これらのサプリメントは、検査結果に基づき不足しているものを中心に組み合わせます。一人ひとり必要なもの・量は異なるため、医師・管理栄養士の指導の下で調整しながら進めます。栄養療法は即効性のある対症療法ではありませんが、体質を根本から立て直すことで持続的な改善が期待できるアプローチです。
4. 生活習慣の改善とストレスケア
最後に、生活習慣の見直しも無気力症候群克服には欠かせません。栄養状態や体の機能が整ってきても、不適切な生活習慣が続けば再び不調に陥ってしまうからです。特に重要なのは睡眠・運動・ストレス管理の3つです。
- 十分な睡眠を確保することは、脳とホルモンバランスの回復に最優先事項です。理想的には毎日7〜8時間の質の高い睡眠を取り、就寝・起床時刻を一定に保つよう心がけます。夜更かしや寝不足が続くとそれだけで意欲低下や日中の眠気を招くため、まず睡眠負債を解消することが大切です。必要に応じて睡眠改善のサプリメント(メラトニン、グリシン、トリプトファンなど)や行動療法を取り入れます。
- 適度な運動習慣も「やる気」アップに有効です。ウォーキングやジョギング、水泳、自重筋トレなど自分のできる範囲で構いませんので、週に3日以上は体を動かす時間を作りましょう。運動により脳内でエンドルフィンやドーパミンが分泌され、軽い運動後に気分が爽快になったり頭が冴えたりするのを実感できるはずです。また、定期的な運動は慢性炎症を抑え、睡眠の質も向上させます。無気力で動けないときこそ意識的に体を動かす習慣を付けることで、好循環を生み出します。

- ストレス管理も重要です。心理的ストレスは副腎を疲弊させ、前述のようにコルチゾールリズムを乱します。趣味やリラックスできる時間を持つ、深呼吸や瞑想(マインドフルネス)を日課にする、必要に応じて心理カウンセリングを受けるなど、自分に合った方法でストレスを発散・軽減しましょう。特に就寝前のスマホ・PC作業は刺激になり睡眠を妨げるため控えめにし、入浴やストレッチでリラックスしてから床に就く習慣がおすすめです。こうしたメンタルケアは栄養療法と相乗効果で無気力症候群の改善を後押しします。
以上のように、西洋医学の治療に加えて分子栄養学・機能性医学の知見を取り入れた総合的アプローチによって、無気力症候群は改善可能です。実際、当クリニックでも栄養療法プログラムにより「朝起きるのが楽になった」「趣味を楽しむ意欲が戻ってきた」「長年続いた頭のもやもやが晴れて集中力が上がった」などのご報告を多数いただいております。栄養状態を最適化し腸内環境やホルモンバランスを整えることで、脳と体が本来のパフォーマンスを発揮し、生き生きとした活力を取り戻すことができるのです。
まとめ
無気力症候群(アパシー)は、単なる気分の問題ではなく身体からの重要なサインです。西洋医学的にはうつ病やホルモン異常、炎症など様々な要因が絡み、栄養学的にもビタミン・ミネラル不足や血糖の乱れが関与し、機能性医学的視点では腸や副腎、炎症の問題が隠れていることが少なくありません。それらを総合的に評価し、食事・栄養・生活習慣の面からアプローチする栄養療法によって、無気力状態から抜け出す道筋が見えてきます。根気強く原因に対処していくことで、「何となくやる気が出ない…」という状態から脱却し、本来の明るさや意欲を取り戻すことは十分可能です。当クリニックでは科学的根拠に基づいた包括的サポートで、「やる気」と「元気」を取り戻すお手伝いを栄養外来で行っておりますので、長引く無気力でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。栄養外来はこちらから。
最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
体質改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。基本的に、主治医と相談しながら進めていただければと思います。
無料レポート新リリースしましたのでお受け取りください!



1975年横浜生まれ、2021年9月に東京原宿クリニックを開設。内科医、呼吸器内科専門医、アレルギー専門医として豊富な経験を持つ。現在は、一般内科診療をはじめ、栄養療法・点滴療法、カウンセリングを組み合わせた総合的な健康サポートを行いながら、患者さん一人ひとりの生活の質向上をサポート。自身の体調不良経験から、従来の西洋医学に加え、栄養療法の重要性を実感。最新の医学知識の習得に励み、患者さんにとってより良い医療の提供に取り組んでいる。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床分子栄養医学研究会認定指導医。