表参道・原宿の東京原宿クリニック 院長の篠原です。
近年、「永遠の化学物質」と呼ばれるPFAS(ピーファス)による環境汚染と健康被害が、世界中で大きな問題となっています。特に日本では、地下水汚染や住民の血液検査結果など、深刻な状況が明らかになってきました。今回は、このPFASについて、基本的な情報から研究結果、そして対策までを考えていきます。
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Contents
PFASとは?
基本的な特徴
PFAS(パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)は、1940年代以降に人工的に作られた化学物質で、約4,700種類以上存在します。この物質は炭素とフッ素の結合が非常に強固で、通常の環境下ではほとんど分解されません。そのため「永遠の化学物質」とも呼ばれます。撥水剤や撥油剤として広く使用されるようになりました。当時は、これらの物質が人体に与える影響についてほとんど知られていませんでしたが、1980年代以降、工場労働者や周辺住民の健康被害が報告され始め、2000年代に入るとその危険性が科学的に証明されました。
特に有名な事例として、映画『ダーク・ウォーターズ』で描かれた米国ウエストバージニア州の住民被害があります。この事例では、約7万人を対象とした大規模な調査が行われ、PFOAが健康に与える影響が明らかになりました。
さらに、日本国内でも、地下水汚染や住民の血液中のPFAS濃度の増加が問題視されており、対策が求められています。
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PFASの特徴と環境への影響
化学的な特徴
PFASは非常に特殊な化学的性質を持っています。最も特徴的なのは、その優れた撥水性・撥油性です。水や油をはじく性質を持つため、多くの生活用品に利用されてきました。また、熱や化学反応に対して極めて強い安定性を示し、通常の環境下では分解が困難です。
この物質の厄介な特徴として、環境中での高い移動性があります。水系を通じて広範囲に拡散する性質があり、一度環境中に放出されると、広域に渡って汚染が広がる可能性があります。さらに、生物の体内では代謝されにくく、生物濃縮を引き起こすことが知られています。特に問題なのは、血液中のタンパク質と強く結合し、体内に長期間留まる性質です。
環境への影響
PFASは空気や水中を移動しやすく、雨水や河川を通じて遠く離れた地域にも拡散します。このため、特定の地域だけでなく広範囲での環境汚染が確認されています。特に地下水への浸透が問題となり、飲料水への影響が懸念されています。
また、食品の産地や包装材を通じて人体に取り込まれる可能性も指摘されています。これにより、食物連鎖を介して多くの生物に悪影響を及ぼすリスクがあります。
健康への影響
PFASの健康影響については、多くの研究が進められています。以下に主な影響を解説します。
がんリスクの上昇
PFASの健康影響の中で、特に懸念されているのががんリスクの上昇です。研究によると、腎臓がんのリスクはPFASの血中濃度と相関があることが明らかになっています。(論文)。
また、精巣がんについても深刻な懸念があります。研究結果によると、PFOS曝露が精巣がんのリスクを高める可能性が示されており、特に若い世代への影響が心配されています(論文)。
代謝系への影響
PFASは私たちの体の代謝系にも大きな影響を及ぼします。脂質代謝の面では、コレステロールや中性脂肪値の上昇が確認されています(論文)。また、糖代謝にも影響を与え、インスリン抵抗性の増加や2型糖尿病のリスク上昇につながることが分かっています(論文)。
内分泌系への影響
ホルモンバランスへの影響も見過ごせません。PFASは甲状腺機能の低下を引き起こし、ホルモンバランスの乱れや自己免疫性甲状腺疾患との関連が指摘されています。さらに、生殖機能にも深刻な影響を及ぼし、精子数の減少や精子の運動能力低下、さらには妊孕性(妊娠のしやすさ)の低下につながることが研究で明らかになっています(論文)。
免疫系への影響
免疫系に対する影響も重要です。研究によると、PFASはワクチンに対する抗体応答を低下させることが確認されています(論文)。また、全般的な免疫力の低下も報告されており、これにより感染症のリスクが高まる可能性が指摘されています。
妊娠と胎児への影響
妊娠中のPFAS曝露は、胎児の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、低出生体重児の増加、妊娠高血圧症候群の増加、そして流産や胎児の発育不全などのリスクが高まることが研究で示されています(論文)。
その他の影響
近年の研究では、PFASが肝機能や神経系にも影響を及ぼす可能性があると指摘されています(論文)。これらの分野については現在も研究が進められており、新たな知見が蓄積されつつあります。
主なPFASの種類と特徴
数多くのPFASの中でも、特に代表的なものとして以下のようなものがあります。
PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸): 炭素原子8個を持つPFAS。撥油性・撥水性を持つことから、1960年代から泡消火剤を開発しました。生物学的半減期は約5年。
PFOA(ペルフルオロオクタン酸): 炭素原子8個を持つPFAS。過去に広く使用されてきましたが、現在では多くの国で規制されています。生物学的半減期は約3年。
PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸): 炭素原子6個を持つPFAS。PFOSやPFOAの代替物質として使用されることがありますが、安全性についてはまだ課題が残されています。ストックホルム条約で残留性汚染物質として廃絶対象に指定されています。生物学的半減期は約6年。
PFNA(ペルフルオロノナン酸): 炭素原子9個を持つPFAS。
PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸): 炭素原子4個を持つPFAS。PFOSやPFOAの代替物質として使用されます。ヒトの体内では約44日ほどの半減期で排泄されます。
PFASに対する検査と診断
血液検査
体内へのPFAS蓄積の診断方法は、主に血液検査によって行われます。血液検査の結果は、PFASの血中濃度を示しており、これにより体内にどの程度のPFASが蓄積しているかを診断することができます。しかしながら、PFASは脂溶性と水溶性の両方を持つため、血液だけでなく、肝臓や腎臓などの臓器にも蓄積します。当院では血液検査を行っています。
健康影響に対して推奨される検査
PFASによる健康影響を評価するために、以下の検査が推奨されます。
- 脂質検査(コレステロール、中性脂肪)
- 肝機能検査
- 甲状腺機能検査
- 腎機能検査
- 免疫機能検査
定期的な検査を受けることで、早期発見と適切な対策が可能になります。
日常生活におけるPFAS対策:実践的なアプローチ
PFASは私たちの日常生活の様々な場面に存在し、体内に蓄積されやすい特徴を持つ化学物質です。健康への悪影響が懸念されることから、日常生活でのPFAS曝露を可能な限り減らすことが重要になります。以下では、具体的な対策について詳しく説明していきます。
安全な飲料水の確保
飲料水からのPFAS摂取を減らすための最も効果的な方法は、適切な浄水器の使用です。浄水器の使用により血中PFAS濃度が低下することが報告されています。特に、活性炭フィルターや逆浸透膜(RO)を備えた浄水器は、PFAS除去に高い効果を示すことが分かっています。ただし、浄水器の性能を維持するために、カートリッジの定期的な交換を忘れないようにしましょう。
また、各自治体では定期的に水道水のPFAS濃度を検査し、結果を公表しています。お住まいの地域のPFAS濃度を確認し、必要に応じて浄水器の使用を検討することをお勧めします。
食品からの摂取を減らす
食品を通じたPFAS摂取を減らすためには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、食品包装材に注意を払う必要があります。PFASは食品包装材から食品に移行する可能性があることが分かっています。特に加工食品やファストフードの包装材には注意が必要で、できるだけPFASフリーの包装材が使用されている食品を選ぶようにしましょう。
魚介類の選択も重要です。魚介類はPFASの主要な摂取源の一つとされています。汚染された水域で育った魚介類は避け、地域の環境調査結果などを参考に、安全な産地のものを選ぶことをお勧めします。
また、外食を控えめにし、自炊を心がけることで、PFASを含む食品添加物や包装材からの曝露を減らすことができます。
生活用品の賢い選択
日常的に使用する様々な製品にもPFASは含まれています。調理器具については、フッ素樹脂加工された製品を使用する場合、高温での使用や空焚きは避けるようにしましょう。代替として、セラミックやホーロー加工の調理器具を検討することをお勧めします。
防水製品についても注意が必要です。防水スプレーや撥水加工された衣類、カーペットなどにはPFASが使用されていることがあります。これらの製品を使用する際は、できるだけPFASフリーの製品を選ぶように心がけましょう。
化粧品も見過ごせない摂取源です。ファンデーションや口紅などにもPFASが含まれていることがあります。成分表示をよく確認し、「フルオロ」や「パーフルオロ」という表記がある場合は、PFASが含まれている可能性を考慮してください。可能な限り、PFASフリーの化粧品を選択することをお勧めします。
意外かもしれませんが、デンタルフロスにも注意が必要です。一部のデンタルフロスには、PFASの一種であるPTFEが使用されています。素材がナイロンやポリエステルのものを選ぶことで、不要なPFAS曝露を避けることができます。
これらの対策は、一度にすべてを実践するのは難しいかもしれません。できるところから少しずつ始め、徐々に生活習慣として定着させていくことをお勧めします。また、PFASフリー製品の開発は日々進んでいますので、最新の情報にも注目していくとよいでしょう。
定期的な健康管理の重要性
PFASによる健康リスクを最小限にするためには、定期的な健康診断や血液検査が不可欠です。特に高リスク地域に住んでいる場合やPFASが含まれる製品に触れる機会が多い場合は、医師と相談しながら適切な対応を進めることが重要です。
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PFASの解毒(デトックス)の難しさ
残念ながら、現在のところPFASを体外に排出する確立された解毒方法は存在しません。これは、PFASが持つ特殊な化学構造が原因です。PFASは炭素-フッ素結合が非常に強固で、通常の代謝プロセスでは分解が困難です。さらに、PFASは腎臓で再吸収されやすく、また腸肝循環によって体内に留まりやすい性質がありますが、以下に現時点で有用と思われる対策をあげてみます。
胆汁排泄の促進:体外への排出経路をサポート
PFASは腸肝循環で体内に再吸収されてしまいます。以下のような胆汁を介したPFASの排出を促進することで、体外への排出を促す可能性があります。
1. コレスチラミンの可能性
コレスチラミンは、もともと高コレステロール血症の治療薬として使用されている薬剤ですが、PFASの排出促進にも効果がある可能性が示されています。Ducatmanらの2021年の研究では、コレスチラミンがPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)の血清濃度を有意に低下させることが報告されています(論文)。
この薬剤は、腸内でPFASを吸着し、糞便を介して排泄を促進する働きがあります。Boylanらの1978年の研究では、ラットでのコレスチラミンが脂溶性毒素の除去を助けることが確認されています(論文)。ただし、長期的使用には副作用のリスクもあるため、医師の指導のもとで使用する必要があります。
2. クレイによる吸着
クレイ、特にモンモリロナイトなどの粘土鉱物が、PFASの解毒に有用である可能性が示されています。Wangらの2020年の研究では、栄養素(カルニチンやコリン)を添加したモンモリロナイト粘土が、PFOAやPFOSなどのPFAS化合物を高効率で吸着することが示されました(論文)。
Jiangらの2022年の研究でも、表面活性剤で修飾されたモンモリロナイト粘土が、短鎖および長鎖のPFASを効率的に除去できることが確認されています。特に、静電相互作用と疎水性相互作用が吸着に寄与していると考えられています(論文)。
3. 活性炭の利用
活性炭は、現時点で人体内のPFAS解毒に直接効果があるという明確なエビデンスはありませんが、興味深い研究結果が報告されています。Cantoniらの2021年の研究では、特に粒状活性炭(GAC)が、PFASの炭素鎖の長さや特性に応じて高い吸着効率を示すことが分かっています(論文)。
また、Avantaggiatoらの2004年の研究では、活性炭が他の毒性物質(マイコトキシンなど)の吸収を減少させることが示されており、消化管内でPFASの吸収を減少させる可能性が示唆されています(論文)。
ただし、活性炭を長期連用することは、人体に有用なミネラルの減少を促す可能性もあり、注意が必要です。
腸内環境の改善:善玉菌の力を借りて
最近の研究では、腸内環境の改善がPFASの解毒に重要な役割を果たす可能性が示唆されています。Rashidらの2023年の研究によると、マウスではPFASは腸内細菌叢を大きく変化させ、腸と肝臓の代謝に悪影響を及ぼします(論文)。
Nagpalらの2018年の研究では、腸内細菌による短鎖脂肪酸(SCFA)の生成が、腸内環境のバリア機能を強化し、炎症を抑制する効果があることが示されています(論文)。このことから、プロバイオティクスやプレバイオティクスの摂取が、PFASによる健康影響を軽減する可能性があります。
また、食物繊維の摂取も重要です。カナダの研究チームは、食物繊維を用いたコレステロール低下介入がPFAS濃度の低下と関連していることを示しました(Schlezinger et al., 2024)。特に、PFASの短鎖型と代替化合物の減少が観察されています(論文)。
食物繊維は腸内細菌の多様性を向上させ、短鎖脂肪酸(SCFA)の生成を促進することで、毒素の体内動態に影響を与える可能性があります(論文)。特に、水溶性食物繊維は胆汁酸と結合し、体外への排出を促す効果があることが分かっています。
肝機能のサポート:解毒の中枢を助ける
肝臓は、体内の解毒の中心的な役割を担っています。肝機能をサポートすることで、PFASの代謝を促進し、排出を助ける可能性を探っていきましょう。
グルタチオンの重要性
OjoらによるPFASの研究(2021年)では、PFASが細胞内のグルタチオンレベルを減少させ、酸化ストレスを引き起こすことが報告されています(論文)。グルタチオンは、毒性化合物や活性酸素種(ROS)に対する防御を提供し、細胞の生存と酸化還元のバランスを維持するために必要不可欠です(論文)。
ビタミンCの効果
Liらの2021年の研究では、マウスの研究でビタミンCがPFOA(パーフルオロオクタン酸)による肝毒性を低減する可能性が示されています。具体的には、PFOAによる肝損傷の指標(コレステロールやトリグリセリドの増加、肝酵素の上昇)を改善し、肝臓の抗酸化物質(グルタチオン)の増加を助けることが確認されています(論文)。
水分補給と発汗:シンプルだが効果的な方法
水分を十分に摂取することは、腎臓の機能をサポートし、尿を介したPFASの排出を促す可能性があります。また、適度な運動やサウナなどで汗をかくことで、汗を介したPFASの排出を促す可能性もあります。ただし、過度な運動やサウナは体に負担をかけることがあるので、注意が必要です。
まとめ
PFASは現代社会に広く存在し、その健康影響は深刻である一方で、完全な除去は困難であることが分かってきています。しかしながら、適切な浄水器の使用や食品の選択、生活用品の見直しなど、日常生活での具体的な対策により、PFASへの曝露を最小限に抑えることは可能です。
また、腸内環境の改善や肝機能のサポートなど、体内に蓄積したPFASの影響を軽減するための方法も研究で明らかになってきており、これらの対策を組み合わせることで、より効果的なPFAS対策が期待できます。
身の回りの環境について注意を払っていきましょう。当院では、PFAS血液測定を行いつつ、腸内環境改善をおこなった後にデトックスをしています。ご興味のある方は栄養外来をご検討ください。
最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事・サプリメントはひとりひとり異なります。
基本的に、主治医と相談しながら治療を進めていただければと思います。
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1975年横浜生まれ、2021年9月に東京原宿クリニックを開設。内科医、呼吸器内科専門医、アレルギー専門医として豊富な経験を持つ。現在は、一般内科診療をはじめ、栄養療法・点滴療法、カウンセリングを組み合わせた総合的な健康サポートを行いながら、患者さん一人ひとりの生活の質向上をサポート。自身の体調不良経験から、従来の西洋医学に加え、栄養療法の重要性を実感。最新の医学知識の習得に励み、患者さんにとってより良い医療の提供に取り組んでいる。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床分子栄養医学研究会認定指導医。